10月定例コンサート④
文字数 2,271文字
歌音は、白のブレザーを羽織った。指揮棒は忘れずに持つ。前回と同じ過ちは犯したくない。黒のチェックのスカートが振り返った時にはためく。
観客は、見る限りだと多い方だ。歌音は、今までの練習の成果を出す時が来た、と心に決める。
控え室の廊下前には、クラスメイト全員が集まっている。全員白のブレザーに黒のチェックがモチーフのスカートやスラックスを履いている。今から皆で気合いを入れる音頭をとる。
とるのはもちろん、歌音である。こういうのは苦手だが、歌音は皆のやる気を出すような音頭を考えて口にした。
因みにこの状況を歌音たちは見れるはずもない。
その時、圭が歌音に口パクで何かを伝えてきた。
遂に幕が開ききった。いよいよ開幕だ。
歌音は、皆に着席の指示を出し、指揮台に上がった。とても緊張する。
最初の曲は、「マナティー・リリック序曲」である。歌音は、一冊目のスコアのページを捲った。そして、皆と視線を合わせる。
視線が合う人は合うが、合わない人はとことん合わない。これは、仕方がない。まだ歌音に心を開いていない人がたくさんいるのだから……。
歌音が、指揮棒を構えた。プレイヤーたちは、楽器を口元で構える。そして、歌音の指揮が振り落とされた。
金管のファンファーレと木管の奏でるきらびやかな水面を表す連符のかけあい。パーカッションの奏でる胸を突き動かす躍動感と共に10月定例コンサートの幕が開けた。皆を楽しませる……そんな感じの音楽を作り上げる……それを目標として、歌音たちの音楽は波に乗るかのように滑り出しは、好調な勢いで始めることが出来たのだ。