眠り姫症候群
文字数 2,247文字
学園中が騒然となった。
何故なら、クラスメイトの國山聡太が、眠り姫症候群になり、意識が戻らないまま五日の日々が流れたのだ。このまま意識が戻らないのかと考えると歌音は、不安に陥ってしまう。聡太は、学園近くの病院に入院している。クラスでも、不安は膨れ上がり、次は自分かもしれない、と言い始める人もいた。
ダメだ……。完全に一成はグロッキーになっている。絶対昨日、飲んで飲まれてるな……。一成は、一人とぼとぼ歩いて行ってしまった。歌音は、その背中を眺めることしか出来なかった。
全然大丈夫じゃない……。昨日も大量にお酒飲んで飲まれてグロッキーになった、って相馬先生が言ってたわ。まだ、聡太くん目を覚まさないし、眠り姫症候群……本当にクラスメイトに起きるなんて思ってなかったわ……。どうしたら呪いが解けるのかもわからないし……。私は、どうしたらいいのかなぁ……
放課後、歌音と圭は隠れて病院に向かった。
夕方の病院は、静かでひっそりしている。
面会証をもらい、歌音と圭は病院の中を進む。聡太が入院しているのは、七階の五号室。そこに向かう。白川 奈緒にばれないように……。
歌音と圭の前には、まるで般若面をつけたかの形相の白川 奈緒が、立っていた。
もう逃げ場はない。歌音は、本当のことを言おうと口を開くのであった。
歌音と圭は、奈緒に案内され、聡太がいる病室に入った。
白一色の壁と消毒液の匂いが部屋に充満しており、その部屋の窓辺の近くにあるベッドで聡太は眠っていた。今にも起きそうなのに聡太は、眠ったままで起きてくることはなかった。一定の間隔で聞こえてくる寝息と心臓の動きを感じることが出来た。何て痛々しいことになってしまったのだろうか……。歌音は、あの時笑顔で家族が講演会に来てくれる、と話してくれた時の光景を思い出す。あの時は、普通だった。あの電話の瞬間までは……。あの電話の瞬間から、聡太はおかしくなった。ため息ばかりだった、と郁と詩織から聞いている。歌音と圭は下を向いたまま何も話せなくなった。
その時だった。奈緒に声をかけられたのだ。
再び、奈緒に付いて次に案内されたのは、一階の静かなエントランスだった。
席に付くように施され、歌音と圭は椅子に座った。テーブルを挟んだ向かい側の席に奈緒が座り、歌音と圭と向き合う。本当に奈緒の威圧感はすごい。歌音は、びくりと震え上がった。
とある一人の少年が、眠り姫症候群から回復して、学校にも通っているわ。その子には、野球の生放送が効果的だったわ。もしかすると、聡太くんの場合だと心に残るような吹奏楽曲が効果的なのかもしれないわね……。それを作り出すのは、鈴鹿さん……あなたよ!! あなたなら出来るわ!!
必死な奈緒の言葉に歌音は断ることができなくなった。
ここは、毎日音楽を録音して持ってきて、聞かせていたら何とかなるのではと考えたのであった。
結局、歌音が断ることができないまま作戦は決行されることになったのだった。
歌音に拒否権がないままに……クラスにも拒否権は無くなってしまったのであった。