セイレーンの涙
文字数 2,245文字
その沈黙を破ったのは、結愛だった。
二日後、鈴華が登校してきた。風邪の症状が残っているのか、まだしんどそうだ。
しかし、鈴華の事情をクラスは知っている。
鈴華は、渚がその事を言ったことを知らない。悠が言ったことも知らない。
この情報は、知られるわけにはいかない。鈴華には、内緒で行う必要があるんだから……。
でも、鈴華は、何があっても冷静だ。取り乱すような事はない。何故?、と疑問に思ってしまう。絶対、自分の感情を殺している……。これは、あくまで歌音の推測だ。何も起きなければ良いんだが……。
歌音は、色々なパートを見て回り、指揮の練習をするつもりだ。
パーカッションパートから見て回るも、一体感がない。リズム隊なのに……。
チューバ・ユーフォニアムパートの練習も、あまり纏まっている感じはない。
ホルンパートも、昴くんや奏多くんが頭を抱えているのを見てしまった。
相当、思った以上の出来に及んでいないんだ、と思う。
うん、歌音でも頭を抱えそうだよ……。
トランペットパートは、圭が引っ張っているが、一人だけ吹いているかのようだ。
見ていて辛い。皆、練習しているのは分かる。でも、何か足りないんだ……。
サックスパートを見ていると、結愛に視線をそらされた。休憩中だったのだろう。サックスパートのメンバーに睨まれ、色々と面倒なので立ち去った。
フルートパートを見ると、明里がソロの練習をしているのが見えた。頑張っているなぁ、と思う。他のメンバーは、明里のソロに見とれている。分かる……その気持ち。でも、歌音は何か足りないと思った。
最後にクラリネットパートを見ようと、言い争うような声が聞こえてきた。
鈴華は、そのまま教室を抜け出し、走り去ってしまった。歌音は、床に転がったまま何も出来なかった。
これは……死亡フラグだ、と歌音でも分かるぐらいだった。