晴れ晴れとした大海原へ
文字数 1,814文字
残念ながら夕陽の調子は、本調子ではない。何となく完璧に持っていっただけなのだ……。完璧じゃないままの本番……。まだ練習時間がある。夕陽はソロの練習を諦めなかった。諦めたらそこで試合終了だから、という有名な名言がどこかの漫画にあったはずだ。だから、歌音も諦めるつもりは更々ない。
歌音にしか出来ないこと……。
だから、歌音は……出来ることをやるだけだ。歌音の指揮で彼の心を開く!! 空は相変わらず曇天の空……。所々、晴れ間が見えるがすぐに青空が掻き消されてしまう。そんな相変わらずの心を示す夕陽みたいだ。
晴れそうで晴れない空……。嵐が終わりそうで終わらない海原……。
歌音は、指揮棒をとり、構える。周りは楽器を構え、指揮棒を見つめる。
夕陽は歌音の隣につき、クラリネットを構える。夕陽とのアイコンタクトはうまくいった。指揮棒を振り下ろすと、低音楽器隊のサウンドの刻みが始まる。少しして夕陽のソロが始まる。
いつもうまくいかないソロが、うまくいっている。スキップするかのように踊るソロは、終幕を迎え、皆にバトンが渡される。
曇天だった空に一筋の光がさし、空が晴れ始めた。後、もうちょっと……。
皆、楽しそうに吹いているが、感情を感じない。頑張って吹いている人もいるが、ずっと下を向いて吹いている人もいる……。これじゃあ、ダメだ!! 再び夕陽の最後のソロがやってくる。
次こそ、晴れ渡れ!! 嵐の終幕を……。
やったー♪ やったんだ、歌音♪ 嬉しくて仕方なくて……
次の曲「オーメンズ・オブ・ラブ」も「故郷の空」と同じ勢いでやってしまった……。これだけが反省点だ……。
それだけは、ショックだったかな?
こんなにも笑顔の夕陽を見たことがない。
嵐は止み、波も穏やかになった大海原を航海士を乗せた船は進む……。晴れ晴れとした大海原へ……。
梅雨ももうすぐ終わりそうだ。そんな気がした。……コンクールも近づいている。歌音たちは、本気でいかないといけない気がしてきた。