裏事情②
文字数 2,102文字
今まで目指してきたもの。
それが全て嘘で築き上げてきた大人の罠。
学生たちや吹奏楽を続ける大人たちに突きつけられた現実。
楽しく音楽をしたい人たちの思いを踏みにじる残酷極まりない行為。
目の前にいるこの人は、どこまでその現実を知っているのだろうか。
誰も知らない衝撃的な事実に納得がいかない。
誰もが憧れる全国大会の舞台。このままだと僕たちは、全国の舞台に立つことすら許されず、振り出しに戻されてしまうだろう。
前もそうだった。今まで拒絶し続けた。マスコミや依頼など、僕たちが損する物は全て切り捨てていた。
でも、今回は違う。このままだと夢も希望もない。世界に平穏がもたらされる事はこの先、一切ない。永遠に。
橋爪さんが言う事は、信用できない。
しかし、今までの過ちを繰り返さない為にも橋爪さんの言う事を聞いておくのも良いのかもしれない。少しでも未来に希望があるのなら……。
アナウンスの女性の声の後、会場からは拍手が起こったのか、掌を叩くような音が鳴り響く。大阪府代表・矢野中学校吹奏楽部……里紗の出身中学校だった気がする。確か毎年吹奏楽コンクールでは、全国に駒を進めていた強豪中学校。関西大会は、確か強い団体が贔屓されていた記憶もある。
兵庫県代表・真山中学校吹奏楽部は、中堅校。関西大会に始めて出てきた新鋭の中学校だった。確か昴の出身校。この年、初めて全国に駒を進めた中学校。今年も全国大会で銀賞だった気がする。
大阪府代表・白銀学園中学校吹奏楽部は、全国大会で毎年金賞を修めている強豪。この年は、いつも以上に新鋭と古株がぶつかり合ったと音声で感じ取った。
その時、連盟側の役員たちが小声で話しているみたいだが、こちらには、筒抜けだし、意味がない。
反吐が出そう。それしかない。連盟側は、賞の操作をしている。その代表に選ばれていた人間の好き嫌いで選んでいるのが分かってしまった。連盟側は、里紗の事を気にくわないと思っている事が……。彼女の双子の弟・理世を庇護している。
これは、酷すぎる……。大人の毒にのみこまれそうだ。
これは、僕だけの「物語」ではない。みんなで綴る「物語」だ。
しかし、僕はもう全てを見失ってしまいそうだ。難しい話を持ち出しても相談する相手もいない。
本当に調子が狂う。
嫌な予感を漂わせながら、合同演奏会は後半戦に突入する。