堕天使の心は清く、エンジェルは淡い恋心を抱く
文字数 2,860文字
歌音は、大河と郁を練習室Aに誘った。
すでに昴と里紗が準備を済ませ、楽器を構えていた。あがり症の里紗の手首に昴はおまじないをかけ、落ち着きを見せていた。
「観客は全員、明石昴」というおまじないは、効果は抜群で里紗は笑顔で立っているのだ。
ホルンが金色に輝き、クラリネットも丁寧に磨かれ、綺麗に維持されている。
そんな二人が奏でる「whole new world」は、どのように輝く音色を作り出すのか?!
大河と郁を圧倒する音色を……。
作り出すのだ、最高のアンサンブルを……最高のラブソングを……。
しかしながら、大河の表情は固いままである。このまま演奏を始めて大丈夫なのか……歌音は不安になってきた。
性格が悪いことこの上ない。
しかし、里紗はニッコリと悪戯めいた笑みを浮かべ、大河を牽制したのであった。それに対して、大河は若干怯んだが、またいつもの表情に戻っていた。
しかし、今日は昴におまじないをかけてもらっている。だから、無敵だ。このおまじないは里紗には効果はてきめんなのだ。
遂に始まる。蝶と鳥の舞が……。
ミスのない正確で感情のこもった演奏をあなたたちに届け……皆に届け!!
涙が溢れるぐらい綺麗なラブソングをこの世界に響かせたい……そう願う里紗も昴は、寄り添いあい、励まし合い、「Whole New World」を完成させることが出来たのだ。
曲が終わる。
大きな息をついた里紗と汗を拭った昴は、大河と郁を圧倒していたのだ。
二人にこんなに隠された才能があったことを歌音はこの時、初めて知ることが出来たのだ。
音楽は、繋がった。大河と郁の反応が気になるところだ。里紗と昴が紡いだ音楽は、大河と郁の心に届いたのか?
すると、大河から意外な言葉が飛び出してきた。
大河が里紗の頭を撫で回している。里紗は、大河の手から逃げ惑うが、されるがままの状態になっている。
気が付いたころには、里紗の髪型は乱れ、ぼさぼさになっていた。
大河の視線に入ったのが、昴であった。昴がげっ、という表情をし、その場から逃げ出そうとしたが、もう手遅れだ。
大河が昴に思い切り抱きついたのだ。
この事件一件落着。
しかし、この事件はこれで終わりではない。歌音が思う以上に、事件はスピーディーに進んでいたのだ。勿論のこと、一成も知らない。今は笑顔で振るまっているが、この先笑顔でいる事ができるのか。
心を開いた堕天使とエンジェルは、心清く潔い恋愛をしていくことだろう。歌音は、それを見て笑顔を浮かべたのであった。いつも笑顔を見せない囚われの蝶と籠の中の鳥もまだ囚われたままだが、少しは羽ばたくことができたと思われる。
その頃、明里はとある教室にいた。
明里は、怒りをあらわにし、とある少女に叱責していた。
その少女は、明里以外には今は見えていない。
香苗の発言に明里は何も言い返せない。そのまま明里は、何も言い返せないまま香苗の前を後にしたのであった。
廊下で明里は一人で呟いた。
最後の方、明里の言った言葉は周りの喧騒にのみこまれ、誰も聞こえなかったそうだ。
この物語は、一つの楽団のメンバーの心を開き、世界を救うために悪と戦う音楽ファンタジーである。
世界の崩壊は、予想よりも早く進行していたのである。その事は、誰も知らないことであった。