花好きの乙女
文字数 1,815文字
安心した歌音は、寮の部屋を出て、中庭に向かった。
誰かが花壇の水やりをしているのを見つける。歌音は、その子の事をよく知っている。
彼女は、芦屋 愛花。歌音のクラスメイトでトランペットを担当しているお洒落な女子生徒。のほほんとした空気を持つ芦屋に住んでいた女の子らしい。
声をかけようと歌音は、愛花に近づいた。それよりも前に、もう一つの影に歌音は気がついていない。
歌音は、逃げ出したくなった。
まさにその時だった。
あれは、事故だ。
歌音は、全否定してやりたかった。
しかし、何も言い返せない。
数日前の出来事になるが、歌音は圭に迫られた。それは、とても切羽詰まった状態だった。押し倒された上に深いキスされた。胸も触られた記憶がある。
それでも、歌音と圭は友人同士だ。それ以上でもそれ以下でもない。
歌音は、この思いとどのように付き合っていくのか悩んだが、無理そうだった。
そこには、不安要素もあった。今、圭に告白して未来が大きく変わらないか……という大きな心配要素。圭も多分、そこを気にしているだろう。
しかし、歌音はまだそこまで理解できていない。相手の感情に疎い訳ではない。怖い。はっきり言ってしまえば変わるのが怖いだけだ。
里紗が何かを言いたそうだったが、何も言わなかったのが問題だろうか。
歌音はこの日、愛花の闇を思い知らされる事になるとはこの時気がついていない。残酷な世界で歌音たちは必死にもがきながら生きていく。