巻き添え
文字数 2,791文字
その時だった。悠がビクッと反応したのを明里は見逃さなかった。
何たる失態。明里は、不気味な笑みを浮かべ、悠に更に近づいてきた。唇に接触するまであと十センチぐらいだろうか……。はっきり言って近い距離に悠は戸惑いを隠せない。
はっきり言って何をしたら治まるのかなんて悠には分からない。こうなっているのは、歌音と圭があんなことやこんなことをやっているからだ。共感覚より「テレパシー」の方が悠にとっては厄介な能力なのだ。圭と同じ感覚を味わうことになる。今もなお歌音と圭のせいで悠は、地獄を味わっているのである。
これが「地獄」なんだと思い知らされる。キスの感触や舌の感触まで全て伝わってくるし、圭が発情しているせいで悠も巻き添えをくらっていたのだ。
悠が少しでも動けば明里の唇に当たりそうな距離にまで詰め寄られている悠は葛藤を繰り返していた。
心の中の天使と悪魔がせめぎあう。天使の方は「まだキスしなくても良いよ。明里は大切な女の子だから大事にしなさい」と言い、悪魔の方は「キスしてしまえ!! そのままエッチもしてしまえばいいじゃないか」と言ってくる。
しかし、今のところ悪魔が優勢。天使もいれば悪魔がいる。天使だけの人間なんて存在なんてしない。
悠は、逃げようと明里から顔をそらそうとした。
しかし、明里はそうはさせない。悠の頬に手を添えたのである。普通男女やること逆じゃない?
明里の鼻の先と悠の鼻の先が優しく当たる。