歌音と一成の過去 後編
文字数 1,854文字
まだ六歳の子供を外に追い出し、大人たちはぬくぬくしているのが、気にくわなかった。
あの時、亜里沙が歌音を見つけてくれなかったら、と考えるとゾッとする。
その後、俺は出来る限り、自宅に早めに帰ることにした。学校側も了承してくれたのが、唯一の救いだったかもしれない。
コンクールも無事に全国大会まで進み、十月末最終週の土曜日に本番を迎える事になった。木曜日の授業の後、トラックに楽器などを詰め込み、俺たちも岡山に向けて出発した。帰ってくるのは日曜日の夜。それまでに何も起きなければいいのだけど……。
その結果は、望んだ通りの結果になり、約十年ぶりに「革命」が起こった。「革命」が起こされたその日は、誰もが歓喜の声を挙げて喜んだものだ。「絶対王者」と言われている人々が、「新規新鋭」に敗れる伝説の瞬間だった。
後は帰って、家族と過ごすだけ……。
その瞬間は、一生来ることはないけど……。
久しぶりに一時の平静を味わう事が出来る、と思い込んでいた。
この幸せな時間は、もう戻ってくる事はないが……。
自宅に戻ると、普通とは異なる異様な空気が流れていた。
何か荒らされている……。物色された感じがあり、所々に赤黒い斑点が飛び散っていた。
防犯や防音に厳しい家なのに鍵がかかってなかった上に、灯りまで消えている。明らかにおかしい。何時もなら「帰ってきたら鍵を閉めなさい」とうるさい家庭なのに。
この後、歌音は無事に保護され、今の現状に至るのだが、思い出すだけで反吐が出る過去の記憶。また、それを夢として「見る」とは思わなかった。
平和的な懇親を深める為に企画した聖セリーヌ高等学校吹奏楽部「エース」が、誘った四校。それは、十年前と全く同じで何かを繰り返しているような気がした。
今回はいける、その考えは甘かった。再び運命の歯車が廻り始めた以上、誰も止めることが出来ない。