近くの闇
文字数 1,921文字
しかし、人々はそれに抗う事は出来ない。きっとみんなそうだ。抗ってもみくちゃにされて、死んでいく。こんな世界にいつからなってしまったのだろうか。
思うことはただ一つ。この物語では、誰一人として、運命から逃げることも屈伏する事も許されない。
「祝典序曲」の合奏中にことの発端が起きてしまう。それを予知できるのは誰一人いない。
これは、歌音たちにとっての試練となるだろう。
トランペットパートのリーダーの圭も頭を抱えている。
嫌な表情を浮かべる圭以外のトランペットパートのメンバー。一人で吹くということは、誰が吹けていて誰が吹けていないのかすぐに分かってしまう。
亜里沙は、メンバーの名前を一人ずつあげていく。
それと同時に響くトランペットの音色は、まるで夏の太陽のようにキラキラしていて、綺麗だった。嫉妬すら感じさせない純真な音色に亜里沙も納得している。
愛花は、ビクビクしながらもトランペットのマウスピースに唇を当てる。大きく息を吸い込み、綺麗な音を奏でるつもりだった。
しかし、愛花には出来なかった。
出だしの音が掠れてしまい、音がぶれてしまう。震える音には、不安を感じとる事が出来た。何度も音が途切れてしまい、最終的には、愛花はトランペットのマウスピースから唇を離し、下を向いてしまった。
周りが密かに話を始めている。色々と悪意のこもった話に歌音は、苛立ちを覚えた。
確かにそうかもしれない。まだ、曲は完璧とは程遠いものだ。みんなの求めるものには近づいていない。
歌音は、愛花を探した。
しかし、愛花はパートセクション練習には、顔を出さなかった。