【幻想】を詠う人
文字数 1,522文字
冷たい。
誰もいない。
何もない真っ暗な空間に少年は立っていた。
それでも最近は、同じクラスの人に笑ったりもするし、困惑したりもするし、怒ったりもする。少年にも人間らしさはある。
それなのに“俺”は、少年に手を差し伸べる事すら出来ない。
“正しい道筋へ導く”だけしか出来ない。まだ“アイツ”の力が絶大過ぎるが故、“俺”は何の力にもなれない。
何時かこの繰り返される“悪の輪廻”を終わらせる為に、少年たちにはここで立ち止まって欲しくない。この先に待ち受けている“革命”の為に……。
今は声しか届けられない。少年たちが“アイツ”の力を消耗させてくれたら“俺”もまた普通の生活に戻れるかもしれない。
その為に“俺”は、少年に問いかける。
だから、ここに迷いこんだ人々を光の道に導くことしか出来ない。
歌と音楽には、それぐらいの力があるんだし、“俺”が詠う【幻想】と“アイツ”が詠う【背徳】、最後に勝つのは綺麗な魂をしている方なんだから……。
だから、少年たちには期待しているんだ。この世界が残酷な世界だとしても、最終的に勝つのは綺麗な精神と魂を持つ者なんだって……。