詩織にとって……この思いは絶対的だ。
それは、第一に、詩織は聡太が好きだということ。第二に、その思いは外に漏らすべきではないこと。第三に、詩織の思いは聡太に知られてはいけないこと。
2017/09/07 17:53
何故なら……この思いが知られるということは詩織にとっては死を表すからだ。詩織は、この思いを聡太に告白しない事が生き残る道だということを知っているのだ。だから、詩織はこの十月中に告白はしない、と決意したのだ。
そう決意したのは、何時だっただろうか……。多分、この学園に入ってすぐのことだっただろうか。この思いを十月中に告白しない事は、その代わりの代償として他に壊してしまうものがある。それは、毎月行われている「月末定例音楽会」を壊してしまう事になるのだ。だから、詩織は「月末定例音楽会」を壊しても良いと思っている。聡太に告白して自分の死亡フラグを乱立させるより、未来の為に告白しないという手段をとっても良いと思っている。
2017/09/07 17:56
「月末定例音楽会」楽しみだなぁ。「マナティー・リリック序曲」「三日月の舞」のトランペットのソロを俺が担当するんだし♪ 歌音にはたっぷり俺のソロを聞かせてやるからな♪
2017/09/07 18:04
分かったから……圭くん!! それより顔が近い!!
2017/09/07 18:06
ここにリア充を発見……。圭が歌音に急接近している。今にもキスしそうな距離。
それを見た詩織は、ため息が出た。本当は、聡太とこんなことやあんなことをしてみたいと思っている。何をしたいかは秘密だ。みなさんの想像にお任せしよう。続けざまに詩織はため息をつく。それを見ていた聡太は心配になったのか詩織の近くにやって来た。しかし、詩織はそれに気がつかない。それぐらい悩んでいたのだろう。
2017/09/07 18:07
おい……詩織。詩織!!
2017/09/07 18:12
うぁっ……ビックリしましたわ……。聡太さん、どうかしたんですか?
2017/09/07 18:15
詩織……さっきから上の空じゃないか。そんなに歌音さんと圭さんがやっている行為が羨ましいのか?
2017/09/07 18:16
そんな事ないですわ!! 私はあんな破廉恥な行為はしたくないわ。こうやって聡太さんと喋っているのが良いのですわ!!
2017/09/07 18:17
いや……そういうようには見えないのだが……。俺は詩織が心配なんだ。歌音さんと圭さんが仲良くしているのを羨ましそうな目で見ているから……
2017/09/07 19:05
そんな事ありませんわ!! 聡太さん、私の事は良いですわ……とりあえず、練習に行きましょうよ
2017/09/07 19:06
詩織は、歌音と圭・聡太から目を反らした。話も反らして自ら逃げた。逃げることしか出来ない。恋は、始まってしまうと誰も止めることは出来ない。その事は、詩織も知っている。だから、自分の感情に嘘をつく。自分の感情を全て圧し殺して我慢する。そうすることで自分の未来を生み出すことしか出来ない。
2017/09/07 19:08
歌音は、異変に気がついた。このクラスの誰かが思いを圧し殺している事に……。
この予想はだいぶ前からしていたのだが、誰が圧し殺しているのかも分からず、今まで蔑ろにしなかったのだ。音楽もその思いすら圧し殺している人がいることに……。
2017/09/07 19:10
圭くん!! 今、感じなかった?
2017/09/07 19:13
感じたって何をだ? 俺には、さっぱり分からないのだが……また、人の感情を読み取ったのか?
2017/09/07 19:13
ご名答。その通りよ。また感じたの……閉鎖的な空間に閉じ籠っている姫巫女の気配を……
2017/09/07 19:14
木こりの次は、姫巫女か……。お前の世界はファンタジーか?!
2017/09/07 19:15
圭の突っ込みがやけに痛い。歌音は、感じたことをそのまま伝えることにする。
2017/09/07 19:16
そうみたいね。音楽ってファンタジーみたいだと思うのよね……。その影響かしら?
2017/09/07 19:17
確かに音楽はファンタジーみたいな作りになっているよな。俺には、お前みたいに何も見えないから分からないんだけど……。それでもお前の助けになるのなら、俺は歌音に協力する
2017/09/07 19:18
ありがとう、圭くん。毎回協力してくれて嬉しいわ
2017/09/07 19:20
だって俺は、歌音が好きなんだからな♪
2017/09/07 19:20
またそうやって冗談を……
2017/09/07 19:21
歌音は、圭と今回は詩織を追いかけることにした。閉鎖的な空間に閉じ籠っている姫巫女を救い出すための音楽を作る。それが、今回の目標となったのだ。本番まで後、一週間。歌音たちの最後の追い込みが始まる。
2017/09/07 19:22
違う!! チューバは、そこは力強く音を出さないといけないんでしょ!! もっと前に出て来て!!
2017/09/08 11:12
聡太の元気な返事と返事をしない詩織の違いを歌音は見てしまった。詩織は上の空だ。歌音は、不思議に思った。そりゃ、心を開いていない詩織のことだから、返事をしないというのは理解できる。歌音は見ているのは、相手の心だ。相手の心を見ているのだ。その事に詩織は気がついていない。
2017/09/08 11:18
(歌音さんの指揮で奏でる音楽は、まあまあ好き。でも、今の私には無理……。こんな汚い思いを圧し殺している……。本当は、私が死んでもいいから聡太さんに告白したいのに……。でも、今は歌音さんの言うとおりにチューバを奏でないと……)
2017/09/08 13:05
ストップ。詩織ちゃん……一人でさっきのフレーズ吹いてください
2017/09/08 13:07
「三日月の舞」のチューバがテンポよく跳ねるフレーズを詩織は奏でていく。しかし、詩織の音色は跳ねているように聞こえず、ダラダラと音を引き摺っているように聞こえる。歌音は、再び指揮を止める。
2017/09/08 13:08
全然ダメね。今の詩織ちゃんは、音楽の事をあまり考えていないみたいね……。こんな音じゃ「月末定例音楽会」出れないですよ。分かってますよね?
2017/09/08 13:11
じゃあ、詩織ちゃん……出来ますよね? 「月末定例音楽会」までに完璧に出来ますよね?
2017/09/08 13:12
分かったわ。詩織ちゃん、練習はしてきてね。色恋沙汰で悩んでいる暇があるなら出来ますよ
2017/09/08 13:16
詩織の思いは、聡太に告白しない。そうしないと詩織の未来は見えないから。今、こうやって歌音から注意を受けている詩織はこれぐらいがいいのだと思ってしまう。
しかし、この詩織の思いはとある事件をきっかけに悪い方向に動いてしまう。
2017/09/08 13:16