歌音と一成の過去 前編
文字数 2,055文字
お兄ちゃんの両親がその年の一月に交通事故で亡くなり、お兄ちゃんも大怪我で入院していたらしい。
第一印象、怖いヤバそうなお兄ちゃん。
鋭い視線で睨み付けられた私は、お兄ちゃんとは一生涯仲良く出来ない、と思い、距離を置いていた。両親からも距離を取られ、私は常に一人ぼっちだった。
この気持ち悪い力のせいで友達も誰も出来ないし、人すら近づいてこない。今とは違う真逆の生活を強いられていた。
羨ましい……。
変な力も持っていないお兄ちゃんが羨ましい……。
どうせ何かあったとしても私とお兄ちゃんには、何の接点もないし、関わる必要もない。
それなのに両親は、私とお兄ちゃんを比べる。私は「欠陥品」でお兄ちゃんは「天才」だと……。
誰も助けてくれない。私は、この世界で一人ぼっちなのかもしれない。この先もずっと永遠に……。
何か頭が痛い。眩暈がする。息をするのも苦しい。
傘もささずに家を飛び出した事もあり、バチがあたったんだと思う。
目の前には、伊達政宗像。こんなところまで来てしまったんだ。もう歩けそうになかった。六月にこんなところで死ぬなんて世も末だよね。もうどうでも良かった。誰かに拾われて助かるなんてあり得ない。
急に目の前が真っ暗になる。死ぬ前に何か川みたいな物を渡るとか聞いた事あるけど……。目の前には暗闇が広がっていた。
温かい。誰かに手を握られているような感じがする。私は、六歳にして死んだのか? そんなはずはない。この薬品の香りに私は覚えがあった。私の事を唯一認めてくれていた祖母の思い出と同じ香り。
私は、目を覚ました。白い一室にいるみたいだった。私の左手の甲には、薬剤を注入する針が刺され、何らかの薬が投与されていた。口元には酸素マスクがつけられている。それで途中から呼吸がしやすかったのだと気がついた。そういえば右手も何か温かいような……。
こんな優しい日々が続くと私は思っていた。お父さんとお母さんは相変わらずだったけど、お兄ちゃんは私に優しく接してくれる。
幸せは永遠には続かない。