迷走する音
文字数 2,162文字
歌音は、何度目かの指揮を止めた。
でも、何となく分かっている事もある。やっぱり圭と悠の音色が対立しあっている。喧嘩した原因なんて分からない。歌音と明里が関わっているのは事実なのかもしれない。
しかし、明里の言うとおりにもう一度通し演奏をしてみたが、納得のいくようなものではなかった。
悠が吹いているクラリネットソロが迷走するし、トランペットの旋律が揺らぐ。それに巻き込まれるかのように他の楽器も揺らぐ為、吹けていても下手に聞こえてしまう。
練習している曲もバラバラであらゆる旋律が散らばっている。『sing sing sing』とか『祝典序曲』とか『第六の幸福をもたらす宿』とか……。どれも迷いのある音ばかりが奏でられる。
だって、圭と悠は歌音にとっては大切なクラスメイトで団員だ。圭は大切な恋人だし。悠は大切な人の兄にあたる。今、この場所で失う訳にはいかないのだ。
その時、遠くの方で『バチバチ!!』と大きな音が聞こえてきたのだ。一成は、とある本を開き、拳銃を取り出した。どういう事なのか歌音には全く理解できない。また、里紗の不調で結界が破れたのかもしれない。
冷たい風が吹き、紅葉や銀杏の葉が舞う。それにつられ、小雨が降り始める。クラスメイトの為に歌音は、一成から頼まれた事を遂行したのであった。