あのまま私は、圭に送り出される形で学校に戻ってきたのだが、何か異様な空気が流れている。
悪意と慈悲────何とも言えない捩れた感情の歪みを感じることが出来た。
2020/02/02 22:14
(クラリネットパート、練習してるんだろうなぁ。音が聴こえてくる……。でも、あまり練習に集中出来ていない感じかな?)
2020/02/02 22:16
感情の歪みは、音からも感じ取ることが出来る。もう色々な感情でぐちゃぐちゃになってしまっている気がする。
暫くすると音がいきなり無くなった。そろそろ21時だし、切り上げたのだと思っていた。
2020/02/02 22:19
あんたに里紗の何が分かるって言うのよ!!
2020/02/02 22:24
女子の甲高い声が聞こえてきた。何かに対して怒りの感情を剥き出しにしていることは分かる。
何かあったんだろう。
私は、急いでその場所に向かう。何時も木管セクションが使用している第1練習室。灯りが漏れている部屋はそこぐらいしか無かった。
2020/02/02 22:27
ちょっと失礼するね……
2020/02/03 23:53
部屋にはクラリネットパートと大河がいた。雰囲気はあまり良くなさそうだ。
2020/03/08 22:42
里紗はそんな事する人じゃないわよ!! 訂正しなさいよ!!
2020/03/08 22:44
訂正するも何も証拠出揃ってるんだよ!! あれはただの人殺しじゃないかよ!!
2020/03/08 22:46
違う!! 里紗の事、恨んでるからって悪く言うのは許さないわよ!!
2020/03/09 19:32
別に恨んではねぇよ!! 俺は、アイツが今回の事件に絡んでる事に怒ってんだ!!
2020/03/09 19:34
まだ最初から絡んでるとは思わないわよ!! 何らかの事情があったとしか思わない!!
2020/03/09 19:35
話が見えてこない上に渚と大河が喧嘩になっている以上、どうしたら良いのかも分からない。
2020/03/09 19:37
本当に里紗さんがそんな事出来ると思うかしら?
2020/03/09 19:40
何を言い出すかと思えば……アイツを庇うと言うのか?
2020/03/10 22:45
だって、里紗さんは空気読めないけど人を殺すような凶器的な人じゃないもん。同じクラスの仲間である以上分からないかしら? 分からなかったらただのバカとしか言いようがないし……。
2020/03/10 22:47
あまり調子に乗るなよ……ただでさえ俺はまきこまれてる側の人間なのによ……お前らだけ何でも知ってるような顔しやがって……
2020/03/11 19:21
大河の言いたいことは何となく私にも分かる。≪まきこまれてる側の人間≫と何回も思いたかった。
しかし、私はその行為を止めた。止めないと前に進めないから。ずっと同じ場所に止まっても得しないから。前に進む決断を下しただけにすぎない。
それが一部の人にとって迷惑でも止めるつもりはない。止めた所で未来なんてないから。それを理解していない人は、まだたくさんいるだろうけど、目的地が多少違えど、行き着く先が同じであるなら私は何だって出来ると思っている。
今まで思ったこともない事だけど信じている。
2020/03/11 19:26
まず何があったか私も理解できないから教えてほしいんだけど……
2020/03/11 19:28
今更過ぎるだろ、すぐ近くでテロだよ。何人か人死んでるのに知らないとか……
2020/03/11 19:30
テロ? 小耳に挟んだ程度の話題だからあまり詳しい内容までは分からないの
2020/03/11 19:31
私は言葉を失った。
待って……。数日前まで普通に言葉を交わしていたクラスメイトが今回の事件にまきこまれてしまった事に私は憤りを感じた。私自身に対してのものなのか犯人に対してのものなのかめちゃくちゃになったものが込み上げてくる。どす黒い感情だった。
2020/03/11 19:37
今朝、普通にメッセージのやり取りをした……「里紗と出かける」って。昴のヤツは嬉しそうに言ったから全て見逃してやったけど、何故あの時止めなかったのか……はっきり言って後悔しかねぇ。里紗のヤツも連絡つかねぇ。もうよく分からねぇよ……
2020/03/11 19:41
分からなかった。私もこのメンバー間で何が起きていたかなんて理解できていない。理解できたとしても深い沼に引き込まれるだけだと……。
2020/03/11 19:44
誰もが言葉を失い、静けさが増した時だった。
「~♪」
空気を読まないメールの着信音がなった。
2020/03/11 19:46
もう……こんな時に……ちょっとは空気読んでよね……
2020/03/11 21:43
マナーモードにし忘れていた渚のスマートフォンの音だった。渚は不機嫌そうな表情でスマートフォンを操作していたが、表情が若干緩んだのが分かった。
2020/03/11 21:45
里紗から返事が返ってきたわ!!
2020/03/11 21:45
渚の喜びの声に私は少し安心感を覚えたが、すぐに険しい表情に戻った。
2020/03/11 21:52
それで、何て返事が来たんだよ
2020/03/11 21:53
意味分からない……
2020/03/11 21:54
本当に使えねぇな!! とりあえず見せろ!!
2020/03/11 21:55
大河は渚の持っていたスマートフォンを取り上げ、画面を見つめ、その場にいる人に聞こえるように読み上げた。
2020/03/11 22:05
≪今から決戦の場所に赴きます。たぶん、わたしは無能なので100%生きては帰れません。なので、これで最期にします。生きていてすみませんでした。さようなら、渚。今までありがとうございました。≫
ふざけんじゃねぇよ!! 何最初っから諦めてんだよ、アイツ!!
2020/03/11 22:17
悲痛な私たちの声は、里紗には届いていない気がした。雪は静かに降り続き、その間も周りを真っ白に染め上げていった。
2020/03/11 22:19