音楽幻術の魔術師
文字数 2,057文字
警察のお世話になるし、事情聴取を受けたし……。
ここ最近、警察のお世話になりすぎている気がする。
危険なことに首を突っ込みすぎている事には、反省している。でも、歌音は悪くない。
そうなるべくしてなっているだけだからだ……。歌音が悪いわけではない。
相馬先生も疲れぎみなのが目につくが、大丈夫だろうか? 多分、大丈夫でしょう。
歌音が指揮台の上に立つと何人かが笑顔を見せてくれる。歌音に心を開いた人は増えてきている。演奏も格段によくなってきている気もする。
今日の合奏曲は、「シンフォニア・ノビリッシマ」
どの楽器も目立つ曲だ。
歌音が指揮棒を振り上げると、周りは楽器を構える。この曲は四分の四拍子……。
歌音が指揮棒を振り下ろすと同時に、金管と木管・リズム隊の音が鳴り響く。
ラの音が鳴り響く感覚は、何時もより良い。
巧も笑顔だ。この前まで苦虫を噛んだかのような表情だったが、それが嘘かのように吹っ切れている。
心のないピエロから音楽幻術の魔術師に生まれ変わる瞬間は、近づいている。低音パートから重なってくる小節……トロンボーンが丁寧に入ってきてくれる。
魔術師だ。巧の心は開かれ、暗闇が消え去り、音楽を操る魔術師に変化したのだ。
ピエロの仮面は、地面に落ちて砕け散った。
これで安心しても良いかもしれない。死亡フラグが立つ可能性はあるが、乗り越えていける、と歌音は思ったのであった。
何故、顔真っ赤なんだろう。
変な圭……。
ここ最近、色々ありすぎて疲れているのは分かるよ……。仕事が忙しいのも知っている。
数学準備室の扉を開けると、お兄ちゃんは椅子に座り、コーヒーを飲んでいた。
そして、立ち上がる。
一成に宣言した。
一成は、敵わない、という表情をしていたが、世界は、救ったものが勝ちだ、と歌音は一成に証明することを誓ったのであった。