音楽家を目指す農夫の思い
文字数 2,279文字
翌日、歌音は郁と話をしていたところに、聡太がやってきた。
別に郁とは普通の話をしていたのでどうでもいいんだけど……
聡太は、郁と話を終えると歌音たちの元を離れ、奏多たちのグループに入っていった。
郁は、何かと合同パート練習に誘われたのが嬉しかったのか笑顔になっていた。歌音もそれを見ると嬉しくなる。聡太の家族も講演会に来てくれるらしく、聡太が笑顔になっていることに歌音も喜びを感じた。
歌音の方が羨ましいわよ。圭と仲良くやれているし……。世界的トランペット奏者の白川圭の恋人です、とか世界的スクープ……スキャンダルの予感がするわね。そして、愛の逃避行……妬けるわね……このこの!!
郁は、歌音の脇腹をつんつんと突いた。
歌音は、脇腹を責められるのが弱い。そのため、変な声が漏れてしまう。
音楽をやっている人は、極度の変態が多いというけどこれで分かった。
郁も極度の変態だ。歌音も圭・悠・結愛も変態なのは分かっているが、それ以上の変態だと思った。
このクラス……変態の集まりだと歌音は思い知らされたのであった。
郁……お前なぁ~……。余計な事言うなよ。クラスの奴らがにおいを嗅ぎつけて集まってくるだろうが……。ってか……お前は歌音のどこ触ってるんだよ……。何て破廉恥なことを……
ようやく郁から解放された歌音は疲れ切っていた。
圭に後ろから抱きつかれてるし、歌音には逃げ場はなかった。圭の歌音LOVEが最近酷い気がする。ヤンデレになりそうで怖くなってきた。圭の心に映し出されているのは、剣を持って女神を守ろうとしている臨戦態勢の英雄様だった。
これは、後に嫌な予感をもたらしそうだ。
嫌な予感がする。
歌音は、その時には教室を抜け出し、廊下を走り抜けていた。みんなは、廊下を走るのは危ないのでやめておこう。すれ違う人たちなど目にも触れず、歌音は廊下を駆け抜ける。後ろからは、圭と郁が追いかけてきているのはわかるが、それさえも無視して駆け抜ける。
しかし、手遅れだった。
ようやく、練習室前に到着し、歌音は練習室の扉を力いっぱい開けた。
そこには、怒りの表情を籠めた聡太の声が響いたのであった。
この嘘つき!! 来てくれるって言ったじゃないか!! どうして来てくれないんだよ!! せっかく、俺が頑張ってきたのに俺の事嫌いなのかよ!! 俺の演奏を聴きたくないのかよ!! もういい、電話切るから!! じゃぁね!!
聡太は、自暴自棄な乾いた笑い声をあげたのであった。
果たして、歌音は聡太の悩みを解決してあげられるのだろうか?
物語はさらに加速を始める。もう誰にも止められない。