合同演奏会 昼の部①
文字数 2,431文字
最初の団体である東北大付属仙台高等学校吹奏楽部の出入りが激しくなってきた。まだ何をやるのかは、お互いに知らない事になっている。
私の元に穏やかな女子部員が話しかけてきた。
藤崎部長もホルンを持ち、譜面を手にした。
遂に始まる。冬の音楽の祭典が……。
そして、遂に連盟代表の挨拶が終わり、舞台の暗幕が開く。どの学校が何の曲を用意してきているかなんて分からない。この緊張感を何回感じないといけないのだろうか。
「ウエストサイド・ストーリー・メドレー」は、レナード・バーンスタイン作曲のミュージカル楽曲。私も一度は聴いたことがあるナンバーの一つだ。
私以外の女子メンバーは、里紗ちゃんと明里ちゃんを残して、会場へ行っている。明里ちゃんは、心配そうに東北大付属仙台高等学校吹奏楽部の演奏を聴いているし、里紗ちゃんは譜面から視線をあげない。
まさか、藤崎部長の言っていた忠告って……
しかし、今の藤崎部長は違う。ホルンを持った瞬間に戦闘モードにシフトされたのを私は見た。
だから、私がみんなの正しい道標にならないといけない。頼りのない指揮者のままではいけないのだと……。
ちょうど、東北大付属仙台高等学校吹奏楽部の最初の曲の演奏が終わり、会場は割れんばかりの拍手が起こる。
実際、部長と副部長が金管パートなのもあるだろう。メンバーの顔色までは見れないが、相当な自信がありそうな雰囲気を醸し出している気がする。
「ジュビリー序曲」は、フィリップ・スパークの楽曲。吹奏楽関係者なら一度は聴いたことがあるはずだ。私は、控え室に響いてくる音に耳を傾けた。
最後の楽曲は、クロード・トーマス・スミス作曲「フェスティバル・バリエーションズ」だった。
私たちも一度はやってみたい楽曲の一つだった。明里ちゃんは画面に釘付けで周りの人を視界に入れていないように見えた。
里紗ちゃんも周りを視界に入れていないような気がする。耳にイヤホンを入れ、周りの雑踏をかき消しているように見てもいいと思う。
私は、まだ認めたくない。ここで、負けを認めたくはない。私たちが、これから新勢力に並ぶ実力になればいい。誰かに依存する演奏はもうおしまいにしよう。
でも、私には出来るのだろうか……。
東北大付属仙台高等学校吹奏楽部の演奏が終わり、会場では熱烈な拍手が起こる。私は、静まり返る控え室の嫌気さもあり、控え室を出た。