心なきピエロ
文字数 1,881文字
失われた時間は大きい。
最近、巧の前に現れた歌音……。
彼女の力は凄い。
次々と心を閉ざしたクラスメイト達の心を開いていっている……。気の弱そうな女の子が、クラスの問題を次々と解決している……。年上の巧には出来ないことだ……。
人の心なんて見えない鏡……。巧には、見えない。見ることなんて出来ないことだ。
鈴華の時は、色々とお世話になったが、巧はまだ歌音を信用できない。
悪い夢を見ているかのような心地になってしまう巧は嫌になる。
きっと歌音には、見透かされているだろう……。
それだったら……。
飛び起きると圭は、まだ寝ている。
良かった……。気づかれなくて……。
これは、巧の問題だ。
だから、圭にも歌音にも……誰にもバレてはいけない。
記憶が抜け落ちたあの日の事を……思い出さないと……。
巧は、心のないピエロで良い。音楽幻術の魔術師にはなれない。
音楽にも心は籠められない……。もう楽しみが苦しみに変わりつつある。
本当なら音楽が好きでトロンボーンが好きだ。
自分が心のないピエロだと分かってからは、音楽にも心を籠められない……。人も音も欺くピエロのよう……。
だから、助けを求める。深い深い闇の底……手を伸ばす。
しかし、誰も巧の苦しみには気づいてくれない。
助けて……
誰か本当の巧を見つけてくれ……、と願う。
それでも、巧は変わるのは怖い。
それなら、ずっと心のないピエロで良い……。音楽幻術の魔術師にはなれなくても良い。
何人かは心を開いて、本気の音楽を作り上げている。
里紗や悠は、元々セミプロなだけあって上手だなぁ。指揮は無視しているけど……。
本当に歌音は凄い。周りの音や感情まで分かってしまう。巧の事にも気がついているかもしれない……。
歌音は、一定のところで指揮を止める。やっぱり何かに気がついたのであろう。
もっと前に出てきてください!! 一人の奏者として自覚を持ってください!!
巧の心や音には、感情はない。時間も遅れている。ピエロと言われても文句は言えない。
巧自身は、歌音の目にどのように写っているのか? 不安押し潰されそうになる。でも、バレてはいけない。自分で解決しないといけない。
助けて……、と声のない叫びを巧はあげ続けている。