賢者のいない本番②
文字数 2,185文字
聖セリーヌ学園高等学校吹奏楽部「エース」の演奏を聴いている時も苦痛だった。漏れだしたスポットライトの光に嫌悪感を覚えたのは、生まれて初めてだった。ユーフォニアムのユニゾンがとても良かったと思う。
後、何時もなら気にならないクラスメイトの声が苦痛だった。弱音ばかり吐露する。リーダーと言われるのも嫌い。別にリーダーだったら、僕より強靭な肉体を持った人がするだろう。力が入らず、背筋すら伸びていなかったのは、分かっている。渚が背中をトンッと叩いたのはいいんだけど。あの後の、背中の痛さは尋常じゃなかった。吐きそうにもなった。頭にも響いた。何か完全な病人モードになってしまったような気がして……。
柏原先生にブラウスのボタン二つ目まで開けられてしまったけど、何か凄く寒いと感じる。
今更だけど昨日のうちに病院に行っておけば良かった、という後悔の念に押し潰されそうだ。
本当に気丈に振る舞ってきたつもりだった。皆が平穏に過ごせるように危険なものは排除してきたつもりだった。それなのに、本番で舞台裏で倒れる始末。周りに不安をばら蒔いたのは結局、僕自身であったこと。迷惑をかけているのは、僕であること。こんなこと、あってはいけないのに……。
時間を戻せるなら一週間前に戻してほしい。それが無理ならアンサンブルコンテスト宮城県大会の日でもいい。
演奏会の方は、ステージから漏れてくる音で何となく現状は掴める。もうグダグダだ。聴いていられない。
手足が変に痺れて動かない。頭痛もマシにならない。吐き気も悪化してくる。熱も高いのか視界もボヤける。
絶対に普段の偏頭痛では無さそうな気がする。
アンサンブルコンテスト東北大会も後、一ヶ月ちょっとで迎えるのに……棄権だけは避けたい。再び頭に激しい痛みが走り、僕の意識は暗転してしまった。