作戦一日目
文字数 2,772文字
朝から録音をしているのだが、不協和音が鳴り響き、縦も合わなければ、パートの間でも音が外れている。
歌音は、焦りを隠せなかった。「眠り姫症候群」になってしまった聡太は、まだ眠り続けている。眠りから醒ますには、聡太の好きな音楽が必要だ。聡太は、何が好きなのかは分からないが、色々と試す必要があったのだ。
ぶっ続けで二時間以上吹き続けているため、バテて音が出なくなってきている人もいる。それでも、歌音は指揮をやめない。
遂に限界になった美園が手を挙げたのだった。
練習になると、歌音は再び音楽を奏でるプレイヤーたちに指示を出していく。しかし、聞いてくれる人と聞いてくれない人がおり、歌音のイライラは募ってくるばかりである。
今日の授業終了を告げるチャイムが、虚しく講堂に鳴り響く。それでも歌音は指揮をやめなかった。
そして、一日目の録音にうつることには、みんなバテバテになっており、それどころではなかった。
録音が終わると数名のクラスメイトが床に倒れこみ、愚痴を言っているのが分かるが、歌音には聞こえていない。指揮台の上に立っている歌音もフラフラになり、指揮台を降りる際に、倒れそうになった為、床に座り込んだのである。
それに気がついた歌音は、いきなり顔をあげると激しい眩暈に襲われ、下を向いてしまう。
カラカラに渇いた喉に冷たい水は、歌音の心さえも潤してくれるかのように安心感さえも与えてくれた。
もしかして、聡太くんの事を考えてたりしませんか?
何人かは感ずいていたみたいだし、歌音は自分のやっていたことに対して恥ずかしくなった。
焦る必要はない。
聡太のタイムリミットまで後五日……。
その間にも世界は、輪廻の縁を廻り続ける……。