囚われの蝶と籠の中の鳥②
文字数 1,690文字
しかし、里紗はあがってしまってなかなか曲にならない。一回吹き終わる度に、里紗はフラフラになって、椅子に腰を下ろしてしまうぐらい……里紗は、緊張していたのだ。手も異常に震え上がり、冷や汗が激しく流れ落ちていた。昴は、その度に練習を中断し、休憩を挟んでいた。
あのクラリネットソリストの高山里紗が、あがり症……となるとどうして今まであれだけ出来ていたのか分からなくなってくる。
誰だって怖いものはある。歌音も人の心が怖いのと同じように……
信用できない……何が?
分からない……でも、信用できない……。
それは、昴と里紗が本当の歌音の姿を見ていないからであって、二人に否はない。
ただ……ここまで心を閉ざし続けてきたことには、理由がある。
これも神様の悪戯だ。神のみぞ知る世界……、って言葉がある。
だから、二人は殻に閉じ籠った。里紗は囚われの蝶となり、昴は籠の中の鳥になったのだ。
昴は、それに気がつき、黙ってしまった。
しかし……
床には、二人が流した汗がポタポタと染み込んでいた。
里紗のクラリネットから垂れ流れた唾も含まれているだろう。
昴もホルンの管に貯まった唾を雑巾の上に捨てている。
こんなにも疲れるなんて思っていなかった。
里紗は、ため息をついた。
それを見た昴は、声をあげて笑ったのであった。
アンサンブル披露まで後5日。