デートと言う名のお出かけ
文字数 2,155文字
寮の前には、圭が待っている。完全に歌音が圭を待たせる形になってしまった。
一一月にしては比較的暖かく、小春日和というのが正しいだろうか。そんな感じのお出かけには相応しい天気だ。
歌音は、急いで圭の元に走って向かう。
その時、歌音の足下に落ちていた何かを踏みつけ、歌音はバランスを崩した。足下に落ちていたバナナの皮を恨みたくなった。自分の身に何か起きたとき、スローモーションに見えるのは何故だろうか……。歌音は、そのまま転びその次に訪れるのは痛みだ、と目を瞑った。
しかし、なかなか歌音自身に痛みの感覚は襲ってこなかった。何か温かい何かに包まれている感じがする。
歌音は、恐る恐るゆっくりと目を開いた。すると、目の前には圭の姿があった。それが分かると歌音の顔は、みるみるうちに真っ赤に染まっていく。だって、圭に抱き締められる形になってしまったから……。歌音は、慌てて圭から離れようとするも、抱き締められており、逃げ出すことは出来なかった。
その間も歌音はずっと圭に手を繋がれていた。恋人繋ぎ……ってやつなのかな? 歌音は、恋愛に関しては無知だ。だからといって、拒否をするような事はしなかった。
三連休ということもあり、列車内は人でごった返していた。もちろん、カップルと家族連れの割合が多く感じられる。
その時だった。歌音たちが乗っていた電車がいきなり「 泉中央駅 」の前で緊急停止した。
満員電車だったため、歌音は人に勢いよく押され、圭の方向に押された。圭が歌音を抱き留めてくれたので倒れることはなかったが、電車内は騒然としていた。
人々の混乱と怒りが充満しており、歌音の体調を悪化させるほどのものだった。
もうすぐだというのに……。そう思っていたとき、ようやく列車が動きだし、「 泉中央駅 」に到着したのであった。
圭と一緒に駅に降りると、駅員に取り押さえられた暴れているサラリーマンと見覚えのある顔の少年がいた。その少年とは、コンクールの会場で一度顔を合わせたぐらいであったが、その容姿と変わった性格などが一致していた。