ひょうすべの誓い 節一

文字数 977文字

    最終章  ひょうすべの誓い   
 

  布留部(ふるべ)
  由良由良止(ゆらゆらと)
  布留部(ふるべ)――
 道返玉(ちがえしのたま)――
 死返玉(まかるがえしのたま)――
 十種(とくさ)の秘力が十一(とほあまりひとつ)次元に作用し、おおいにふるわれ、ゆらゆらとゆらいでいた――
 
 道返大神(ちがえしのおおかみ)が、鎮まっていく……

世界が、パズルピースのように剥落していく……生と死がゆらぎ、過去と未来が交錯する時空が……
 ひ
 ()
 (ひら)
 平坂(ひら)
 と、二枚の平子(はね)もつ彼平子(かはびらこ)――揚羽蝶になって、素地(キャンパス)を飛散させていく……
 徐福は、おのれのめのまえで、武士(アイアンサイド)が、アゲハチョウとなって、飛び散っていくのをまのあたりにする……
 「ゆくのか」
 「あなたこそ――そうなのでしょう?」
 ふ――と、わらう……
 まったく、にたものどうし――それはそうか。
 大鎧の袖に手を置くと、そこも、無数のアゲハチョウになって、分散する……
 「いつか、おぬしらにあえることを、たのしみにしておる」
 「日没する処――暗闇の下で」
 われらはきっと、であうのだろう……
 
 「父祖よ――お()らばです」
 「よきであいであったぞ――わが蕩児」
 
 老夫は、面頬の奥で武者は、わらいあう……つうじているくせに、それをあらわにするのがやはりきはずかしい――父子のように。
 その笑顔も、装甲も、チョウのけんらんな色彩と、羽ばたきに化していく……
 かれらは、飛び去っていった――ちょうちょ(プシケー)になって。
 (あづま)へ――
 (あした)のくるところ……日出ずる処(アップライズ・ランド)へ……

そして、ひょうすべどもは、藤原刷雄(ふじわらのよしお)は、菅原世道(すがわらのよみち)は、延暦六年(七八七)の長岡京にいる――
 「ゆめのようであったな」未来の知識は、そうくちをきいているあいだにも、刷雄のなかで、退潮していく――まあ、道返大神(ちがえしのおおかみ)が鎮まられたからには……
 うまれざる未来は、まだうまれていない――ガフの部屋はとざされた。
 来年のはなしをすれば――きっと、鬼が笑う……
 「ああ」真紅の道服をまとうひょうすべが言う。「ゆめのような時間だった」
 刷雄は、徐福の肩に手をおいた。秦の方士は、息を吐く……おのれのなかに残っている、蒸留酒の成分をはきだすように。
 「いきはよいよいかえりはこわい」「ちがわぬ」
 行きは行きで、ずいぶんな悲壮な覚悟とじゅんびでのぞんだはずなのだが。
 
 ひょうすべの神官や神人が、神輿に、神鏡をおさめる――ふたたびそれをかつぎ、ひょうすべどもは、兵主神社へとむかう……
 やみのなかへと……
 
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