ひょうすべの誓い 節六拾四

文字数 932文字


 ヴァイキング以来の、自立自衛し、海という元来法律の網のおよばぬ場所で、不条理にはみずから武力を振るって示威し、打破する……そういう行動原理に気づいたのだ。
 海のひょうすべのやり口を知った……
 
 明国が、海禁というおよそ世の実情にそぐわぬ禁制で、海の往来をはばむというのなら、ヴァイキング以来の伝家の宝刀を抜こうではないか――バトルアックスを以て、蟷螂の斧を打ち砕いてくれよう……
 
 そもそも、直に明と貿易ができれば、こんなにいいことはないのだ。ただ、明は、とくに日本に関しては、海禁をきつくしている――倭寇の策源地だと疑っているのだ。
 とんだ風評被害であろう――お国の人民が大半なのだ!
 
 実は、明も、自分たちの貿易禁止令が、世界の流れにあわず、かえって明朝を(いた)める結果になっていると気づいている一五六七年頃から呂宋(るそん)や台湾、西洋とも貿易をするようになっている――だが依然、日本はかやのそとで、だからこそ、南蛮が間に入って貿易をしていた……中間に入って搾取されているのはまちがいない……
 信長も、足利将軍や大内氏の富強にならい、日明貿易をしようとした。だが、勘合貿易(かんごうぼうえき、勘合符を用いた貿易)の許可は出ず、歯噛みするだけだった。
 室町時代に通底する、きらびやかな異国情緒は、やはり、明に負うところがおおきいのだ――中華のはなやかさに、南蛮の異種や、東南アジアの異風が(おど)されている……
 ゴルディアスの結び目の話を思い出してしまう――古代アナトリアのゴルディアス王が、荷車の(ながえ)をこれまでだれもみたことがないほどしっかりと柱にむすびつけた。そして予言した。「この結び目をとくものこそがアジアの王になるだろう」それからおおくのものが結び目をとこうとしたが、だれひとり成功しなかった。だがアレクサンドロス大王がやって来た時、剣を抜き、結び目を一刀両断にたち切った――彼がアジアの王になった。
 これまで、明の海禁を前に、南蛮人を間に立て、あるいは倭寇の手を借りるという迂遠なやり方で、交易を成立させてきた。
 もっと単純明快なやり方があったではないか!
 (門戸をこじ開ければよいのだ)
 ゴルディアスの結び目を、剣で断ち切る――いや、ヴァイキング・アックスで、だ。
 
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