まつろわぬ民 節百五拾四

文字数 780文字

 現実的な面では、桓武平氏、清和源氏の筋目であるのなら、不輸不入のおおもと、大貴族や社寺にも意見をいうことができ、自分たちの所領安堵をとりつけてくれるだろうと、おおいに期待していたのだろう。
 不輸不入の権(タックスヘイブン)を利用する際の、潜在的な不安である――つまり、それらのおおもとに、農地を寄進している。
 法的には、かれらは主の代官であり、いっぺんの土地も所有していない!
 この不安が、一所懸命の原動力となった。じっさいに、雲上のものたちの意志一つで、所領がとりあげられてしまう……!
 一所懸命は、一生懸命……
 
 もっと、われらに有利な政権ができれば……
 
 このせつなる願いが、つまりは、為政者の究極である皇族をおしあげた――源平に参加する……筋目にしたがう……
 
 やがて幕府ができる……
 
 日本史のおもしろいところであり、のちに西欧列強があたまをなやますところであろう――幕府という、朝廷の、いわば朝廷の開設した役所が、そのまま日本全国を運営し、役所の所長が世襲され、あたかも皇帝――徳川皇帝――のようにふるまい、王朝のように君臨している……
 
 すべては、くさぶかいいなかから出発して、日本史はここまできてしまった……
 そのいなかではやっていた信仰が、
 
 八幡大菩薩
 
 だったのだ……
 
 これがほかの国なら、とっくに、幕府が虎狼となり、ちなまぐさい簒奪劇がくりひろげられ、大政のみならず、王位まで簒奪されていただろう……
 史上唯一、臣下に殺害された天皇は、崇峻(すしゅん)天皇……首謀者は蘇我馬子(そがのうまこ)、西暦五九二年、まだ、初の元号である「大化」が用いられるようになる五十年以上まえのできごとである……
 武士たちは、世界史上の奇観ともいえる自制心を、七世紀にわたって発揮しつづけた……!
 
 さぶらふものは、あだやおろそかにはいたしませぬ!
 
 と……
 
 かつて、秦氏がちかったように――
 
 
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