まつろわぬ民 節五
文字数 547文字
小泉川と、そこから伸びる水路が、連日の雨で、あふれている。(やれやれ)蒸し暑い空気の中、むう、と、押し寄せる臭気に、閉口する。あちこちで、赤い蚩尤旗がひるがえり、戎装 のひょうすべ――秦氏の顔をした兵士――が、疫鬼を追っていた。「病のみ抑えてものう」「金生水の理を賦与しております。ゆるりと、浄水も進みましょう」はためく蚩尤旗、霊感をどよもすときの声、きらめく戟鉾 、鎮圧される疫鬼……やはり、警察力だ。公衆衛生ではない。
「金、露を結んで水漻 れる、も、なるほど理屈ではあるが、こなたは水都」ため息を吐く。「利器の表面を伝う水で清められるほど、せせこましくはないわい」「しかし、窮々 としております」世道は、息を吐く。「武神が水神として、水を清める無理。こなたの仕儀にこぎ着けるのが、せいぜいというもの」歪んでいる。そう思わざるを得ない。
そもそもなのだ――なんで、武神であり、軍神で、乱の神が、浄水を担当するはめになる。水攻めなり、背水の陣なり、物騒なことにしかなりはしない。たしかに、水神の性格を勧請したが、それさえ、無理を通して引っ込めた道理に、陰陽道で大いに配慮した、という程度のことだ。
(無理は承知)――そういう無理が、そもそも祟っている。そうでなくとも、祟る心当たりがあるというのに。
「金、露を結んで水
そもそもなのだ――なんで、武神であり、軍神で、乱の神が、浄水を担当するはめになる。水攻めなり、背水の陣なり、物騒なことにしかなりはしない。たしかに、水神の性格を勧請したが、それさえ、無理を通して引っ込めた道理に、陰陽道で大いに配慮した、という程度のことだ。
(無理は承知)――そういう無理が、そもそも祟っている。そうでなくとも、祟る心当たりがあるというのに。