まつろわぬ民 節廿一

文字数 771文字

 行きはよいよい帰りは怖い――鬼を祓う列が、鬼籍に入れられ鬼になりつつある氏族が、神社の外に出る……まさに、行きはよいよい帰りは怖いだろう。この鬼の列が、帰りには、神を迎えた還幸となる……
  〽とおりゃんせ とおりゃんせ
   ここはどこの 細道じゃ
   鬼神(おにがみ)様の細道じゃ
   ちょっととおしてくだしゃんせ ……
松明を持ち、その炎が風に揺れ、雨が飛び込んで、じゅ、と、鳴る……鬼の列が、悪所を通る。
  〽ご用のないもの とおしゃせぬ
   この子の七つの 弔いに
   供養をたのみに参ります
   ちょっととおしてくだしゃんせ ……
 「鬼遣らい」「鬼遣らい」世道の声に、列が唱和する。ガンガン、盾と矛を打ち鳴らし、矛盾のぶつかる音響で、疫鬼どもを追い払う……方相氏の四つ目の鬼面――四角祭にあっては、天門地門人門鬼門を見張り、厄鬼を打つ……
 地の四大(地水火風)――天の四象(日月星辰)のはざまにあって、人と鬼とのバランスを保つ……
  〽行きはよいよい帰りはこわい
   こわいながらも 
   とおりゃんせ
   とおりゃんせ
 鬼が先導し、神輿が担がれる――鬼神の行列。天一神、中神(なかがみ)の遊行する列は、それを遮ったものを、峻烈に祟ると言うが……
 この雨の夜、「鬼遣らい」の声を上げながら行く鬼の列は――百鬼夜行に他ならない。人気は絶え、草木も眠る……木戸や掛けものの奥で、息をひそめている。
 原始のシャーマニズム……鬼に化した人の列、二元(デュアル)に息づくものを、鬼よりも畏れている。
 ただ、水のみが謳う――そして臭うのだ。これが悪所だ……都市の業。
 鬼の居ぬ間に洗濯というが……この鬼どもは、(カルマ)(すす)ぎに来た。稚児の積み石を突き崩し、永劫へ閉じ込めるのではなく――新天地へ足を踏み入れるために。
 ここに留め置かれるのではなく――その先の、新時代へ踏み出すために。
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