ひょうすべの誓い 節卅一

文字数 437文字

 プロ野球江川卓選手の事件になぞらえてみたが、この天正十二年十二月のできごとには、なにか、闇深いものを感じてしまう――別段、人の醜さや疑獄が介在するわけではなく……
 歴史の行間、光あたらぬ闇深い領域で――この事件は、大きな意味を持っているようにおもえるのだ。
 天正十二年十一月、秀吉と信雄の講和が成立している。
 じつにバカげたことで、そもそも、信雄は、自分と秀吉とのたたかいが、全国規模のものだという観点が欠落している。秀吉と信雄が結んでしまえば、家康は織田家のおためという大義名分を失う。信雄と家康が秀吉を引きつけているからこそ、四国も紀州も、弓引いたのだ。
 あとは、孤軍となった全国を区分する大名たちをひとつひとつ平定していけばいい――
 翌年には、秀吉は紀州と四国を攻め、これを平らげる……
 そして、さらに次の年には九州を侵攻し、島津氏の武勇に手こずるもこれを屈服させる――
 バカな話で、信雄は、伊賀と伊勢半国にめがくらんだために、秀吉に全国をくれてやることとなった。
 
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