魍魎の街 節一

文字数 578文字

     長岡混沌京
 
 
                  ――船頭多くして船山に上る
 
 
 
   その一、魍魎の街
 
 卯月(旧四月)の、青葉の若さ、輝きを含んだ風が吹く。水鏡が乱れ、輝きを返しているのか、空まできらめいていた。
 長岡京は、水利水運の都城だ。小泉川、小畑川、桂川が流れ、それを辿って、木材や瓦を積んだ舟がやって来る。
 延暦(えんりゃく)六年(西暦七八七年)になっても、これらの行き来は盛んだった。それはそうだろう。長岡京は、年若い京だ。三年前に桓武帝の詔で遷都が決まった。
 
 藤原刷雄(ふじわらのよしお)は、人と物の流れを、漫然と眺めていた。
 
 轣轆(れきろく)戛戛(かつかつ)、と、車馬が行く。
 
 荷を担ぐ男たち。
 頭上に籠や薪をのせて運ぶ女。
 荷で水に深々と沈んだ大船が、上京(かみぎょう)へ向かう。
  流れ絶えぬ浪にや世をは治むらん神風涼し御裳濯川(みもすそのかは)

 薫風、というのだろうか。
 山々の巒気(らんき)と青葉の香りを含んだ風が寄せる。
 (良き京となろう)
 刷雄(よしお)は、東二条大路を上りながら、つらつら考える。
 長岡京は、入念に設計されている。
 陸運の難を解消するため、巨椋池や淀川を水路として活用する。
 平城京、奈良の京で、なにかと嘴を挟んできた大寺とは距離を取り、かつ、ここ山城国乙訓(やましろのくにおとくに)は、藤原氏や有力帰化人(はた)氏の勢力地だ。
 地理的にも政治的にも、好条件。
 (地の利、人の和)
 刷雄は、ため息を吐く。
 (あとは、天の時よの)
 
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