まつろわぬ民 節百九

文字数 1,105文字


 (でかいな)せたけがそれほどちがっているとはおもえないのだが、その躯体――肉体労働と頭脳労働の集積がみがきぬいた身体の存在感か、みょうにどうどうとして、自信にあふれているように見える……
 あるいは、その誇示の応酬は、技術畑でしかつうようしないものかもしれないが……
 秦の鬼どもは、
 太古のひょうすべどもは、辻をわたる……
 
 
真紅の道服をまとったひょうすべは、すでに、うやうやしく、平身低頭している――
 先人……先達たちがとおる……
 大陸の戦乱をへて
 本邦にわたり
 渡来人の栄光ある嚆矢となり
 皇室とも()さんとし、皇祖神のひとはしらをうちたてた……
 
 アマテラスの子ら……
 ――さぶらふものは、あだやおろそかにはいたしませぬ!
 
 いにしえの約定をかわした、日本の異邦人だ……
 (われらは、御身らよりはじまりもうした)
 血統、というものはふしぎだ。
 そんなものなにほどでもない、というのが現代の良識というものだが、いざ歴史をひもとけば、秀郷流、秦氏の娘とのあいだにうまれた千晴は、その系譜は、蒲生氏郷や内藤如安といったキリシタン大名を――あの風流(ふりゅう)と伊達の時代にあっても一際あざやかな異端を出している。 
 奥州藤原氏は中尊寺金色(こんじき)堂で有名だが、これはその名のとおり総金箔貼りの仏堂で、金売り吉次のエピソードでも暗示されている奥州の産金量をものがたるものだ。内部の装飾にはアフリカゾウの象牙ももちいられており、施主の富強と、北方貿易(アイヌを介した北東アジアとの交易)の盛況があらわれている――
 どうも、日本人ばなれしている。
 黄金づくしという趣味は、それだけで、日本人の感覚からは乖離したものがある――同様の趣旨をたんのうしたものは、豊臣秀吉くらいであろう……
 かれらが渡来人の血筋だとおもえば、ふしぎに、すっとうけいれられる……
 なにかしら、遺伝するものはあるらしい。
 
 それとおなじ、遺伝する因子をひしひしとかんじていた。
 
 遺伝子を。
 
 DNA(ジーン)情報模倣子(ミーム)かはわからぬが……
 
 われらの源流が、ここにある……
 
 幾世紀をへだてて、われわれに脈々とそそいでる……
 おそらくは、百千年の後も……!
 
 われわれはどこからきたのか(ドゥ・ヴノン・ヌゥ)

 その回答が、ここにある――
 問うたこえに、こたえがもたらされたのだ――
 
 源流が――みずから足をはこぶことで……
 
 (こうまで――
 (こうまで!)
 なんと、おおくのものにかこまれていたのだ――
 
 われらは孤独と……そう、思い込んでいた――
 
 こなたの空も――あなたの宙も……
 
 (さいわい)を約してくれていた……!
 
 旅立ちを祝し――
 その道行きを祝福し……
 
 ――見守ってくれている――
 
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