まつろわぬ民 節八拾九

文字数 648文字

 おのれがなにものなのか――皆目けんとうもつかず……
  われわれはどこから来たのか(ドゥ・ヴヌゥ・ヌゥ)? 
 ひょうすべは、長岡の夜道をすすむ――あめあがりのぬかるんだ地面が、おのれの肉球をそなえた足裏をうけとめ、そこに、足跡をしるす……犬のような足跡を。
 狡兎死して走狗煮られる……もう、国土開発におけるおのれらのうまみはのうなった――だから……上古がすぎれば、煮られるほかないのか……?
  われわれはなにものなのか(クソンム・ヌゥ)? 
 飛鳥尽きて良弓(かく)る――飛鳥時代がおわれば、弓月氏にしたがったおのれらは、もう無用ものか……?
 だから、もう、狡兎も飛鳥もいはしない都会のただなかで、方途を失った道具のごとく、前途の見えない一族のように、所在なく、わけのわからぬものになり果てて……
 それが、おのれらのありようだったのか――?
 ひょすうべは、ひょっこりひょっこりと、がにまたにひらいた足を運び、ちどりあしのよっぱらいのように、京洛をゆく……毛むくじゃらの全身――左右に開いたひじからさき――はげあがった、にへらにへらとだらしなく笑みくずれた相貌……
 髀肉の嘆も、過ぐればこうまで落魄し、(いや)しゅうなる……
 堕落したひょうすべが、かかし(くえびこ)のようにゆらぎながら、所在なくあしをはこぶ……
 
 武の凛烈――
 
 鋭鋒のきらめき……炎、怒号……それらのまにまにはげしく光って、きえる――(たま)のごとき(たま)のかずかず……
 それらはもう、むかしばなしのようにあえかな、残響になりはてた……         
  われわれはどこへ行くのか(ウゥ・アロンヌゥ)
 ………………
 
  
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