まつろわぬ民 節百卅一

文字数 1,241文字

 「ば
 「万歳」
 「万歳ー」ほかのものたちも、きょうれつなおののきのなか、至当にして正当、ゆいいつの解答をくちにする……万歳は、左右のてのひらを、内側にむけたかたち……
 そのかっこうで、諸手を挙げる……
 全員が、必死で――!
 アゲハチョウのむれ――
 
 元旦のあけきらぬやみのなか、大年神(おおとしがみ)が通過するのを……ふるえてまつかのよう――
 夢中で万歳する刷雄と世道、ひょうすべどものからだの線をはしりぬけるふるえ――そこにはじける、喜悦……まぎれもない

のうらに、伏在している……!
 常春がそこにある。
 めでたくないはずがない――
 
 ……なんと、おそろしい!
 
 (かしこ)み畏み――だ。
 現人神(あらひとがみ)をむかえるというのは、めでたいことであり、たえられぬほど

……
 
 畏れ。
 
 神聖(ヌミノーシス)の原質、ここにあり!
 
 桜吹雪のごとくふきつけるチョウ、チョウ、アゲハチョウ!
 無数の夜の断片が――その底でかがやく貴石が……
 小動物どもが大移動する……!
 
 あいているのだ――岩戸がのけられて……
 
 黄泉津平坂――生死のさかいなす深淵が……
 (うおお~)
 アゲハチョウが、走馬灯のようによぎっていく……
 それらの、花弁のようにかるく、火の粉のようにかがやかしく、風のようにかぎりない動勢が……体表とすれちがい、あたかも、とくべつなできごとに参列する資格をあたえるべく、聖別しているかのよう……
 
 大量のアゲハチョウが、生け垣のごとく視界をうずめていくなか……錯綜した記憶のごとく――それが、ぼんやりと、目にうつったのだ。
 
 八条大路のむこうから、あゆんでくる……
 灯にまつわられている――
 火に。
 手持ちの松明……
 そして、鬼火……
 
 鬼、というには、殺伐としたところも寂寥(せきりょう)もない……
 聖霊のように清々としていて、威儀を正してむかえなくてはならない先祖の(スピリット)のよう……
 
 時代と時代がであい、はげしく折衝する……たがいにおりあいをつけようとして、思うにまかせぬ衝突をくり返す……
 
 生と死が……!
 世代(ジェネレーション)世代(ジェネレーション)が……!
 
 (このためか)
 刷雄は、舌を巻く――なんという規模の……下準備!
 素地をつくりだしていたのだ――!
 生と死、幽明が境界をとりはらい、こんぜんとなる……
 そのとき、死せるものも、まだ生まれていないものも邂逅する「辻」となり、この究極の混沌と攪拌から、
 時代は、あらたな様相を呈する……!
 だが……
 (ここが、新時代ではございませなんだか!?
 (長岡の京――平城京を出た新時代の水都!
 (そのさらにさきまで、御身は創業のみわざをおよぼされるのでございますか?)
  わたしはアルファでありオメガである――
  はじまりであり、おわりである……
 (どうして?)
 
 鉄……
 鉄の勢力(アイアンサイド)がやってくる……!
  
 かつてありし偉大なる古人よ……われわわれはどこからきたのか(ドゥ・ヴノン・ヌ)
 今生のありかたに惑いし妖魔よ……われわれはなにものなのか(ク・ソンム・ヌ)
 ご笑覧あれ――われわれはどこへゆくのか(ウ・アロン・ヌ)
 
 いともささやかなる――馬揃えの殿軍(でんぐん)を!
 
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