習合 節一

文字数 962文字

 
   その四、習合(シンクレティズム)
  
 「名推理でしたな」悪所から離れて行く。世道が言った。「む」「裏で手を引いているのが、秦氏であったという下り」「新京造営以来、連中の身の入れようはあきらかじゃ。こたび、おのれの氏神を祀るにあたって、しゃにむに運動し、経費を請け負うのは見えておった。徐福の顔立ち、工夫商人その他、建立にたずさわっている面々の造作、その共通点に気づいてからは、一気呵成じゃ。氏族ぐるみ、しかも、経済も技術も全般に。秦氏なら、自ら請け負う」
 秦氏。
 大陸からやって来た、(あや)氏に並ぶ、渡来人系氏族の双璧。漢氏は、坂上(さかのうえ)氏などの氏族に分かれ、大蔵官僚や武人を出している。美濃に大きな技術者集団を擁するも、外国(とつくに)ぶりはすでにない。
 異風は、もう、なくなりつつある。
 国風(わがくにぶり)の時代。
 (連中のきらめきも、これより成熟する国風のなかに息づくこととなろう)祭祀の家藤原に属するものとしては、国風に軸足を置く以外の選択肢はない。それでも、綾織りのように、あでやかで、異彩を匂わせる(よこいと)が、ところどころにのぞく。そういうのは、悪くない。
 むしろ、そういう変化が、全体を活かすこととなろう。
 (消え去っていくのだ)徐福の声がよみがえる。(ほうよな)
 融けて、うすれる。
 ()らば。自然(じねん)に……
 お()らば。
 背後から、霊感に響くものがあり、振り返った。そこには、月をも脅かす、兵主、蚩尤の大身がある。静物と化していて、尊像であり、それでいて、生きて、息づく。
 (毘盧遮那仏(びるしゃなぶつ))と、奈良の大仏をふと思う。あれも、渡来人の技術力のたまものだ。あれほど巨大な造形を、銅で塗装する能力は、海の向こうならではのものだ。
 おのれの内側で宿った(ほとぼり)には、当初、気づかなかった。まぶちからこぼれたそれが、夜気に冷えるまで。
 


 この気持ちに、理屈はない。
 兵主が、まさか、泣くはずもない。だから、巍々(ぎぎ)として、そびえる、と形容すべき高みにまで、たたずんでいたのだ。
 たたずむ。
 (あはれ)
 依然、うずき、どうかすると骨の根を揺さぶるふるえを、歯噛みして、押し殺した。
 「与力せねばなりますまい」世道が言う。彼も、蚩尤を見ている。「天意すでに定まった以上、われらは従うのみ」「うむ」たもとで、目許をぬぐう。
 (盛事じゃ)
 「たけなわを飾らん」
 よそおうのみだとしても。
 
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