ひょうすべの誓い 節八拾一

文字数 429文字


 もしかすると、秀吉という天下人の死によって巻き起こったこの状況……輝元の脳裏には、かつて、清洲城会議で、信長公嫡孫三法師殿を抱きかかえ、諸将をその威光で平伏させた、羽柴秀吉自身の姿があったのかもしれない……秀頼公を守護する形で、関ヶ原に馬を進めるおのれは、まさしく、かつての羽柴秀吉の位置ではないか!
 (猿めの天下を絶やさぬ
 
 (ひょうすべの天下を!)
 
 そういう、懇請の祈りと、野心があったのかもしれない……ただ、秀頼公は、豊臣家の存亡がまさに目前につきつけられた大坂の陣にあっても、淀殿のそばに置かれたまま、戦時を深窓で過ごした――まだ七つの(みぎり)、それこそ、淀殿や侍女団の抵抗はいちじるしく、関ヶ原が火蓋を切った、まさにその戦火の中で説得しても、手こずることだろう……この場合、淀殿の機嫌を損ねないためにも、豊臣政権の筆頭であるおのれが嘆願しなければならない――
 ただ、その交渉が(しょ)についたかどうかというところで、決着がついた――
 
 西軍は敗北した……
 
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