まつろわぬ民 節四拾九

文字数 989文字

 (肥大(おお)きく、なり過ぎたのかな――)などと、思わぬこともない。全般、などという、単一の氏族名では覆い切れぬほどの大所帯になり、西国から東国まで大領を博し、渡来人も帰化人も倭人も抱えた寄り合い所帯だ。それは、伴造(とものみやつこ)の位を授かろうと、統率の取れない末端が出てくる――七花八裂しつつも、秦という大輪は、依然繚乱と咲き誇っている……
 考えてみれば、無茶な話なのだ。
 それだけの大豪族が、朝の権威が確立したこの時代にあっても、野にありつづけるなどと……
 二律背反だろう――中央集権で、公地公民の原則があり、海内のことごとくが朝廷(みかど)のものなのに……公然と、異風をたたえていて、異邦人然とした巨大野党がある……
 かつては、これでよかったのだ。応神天皇以来の縁――ヤマト政権の権力拡大に秦を代表格とする渡来人勢力も参画し、各地を開化するとももに、一心同体のヘゲモニーを打ち立てる……
 だから、皇祖神はアマテラスで、八幡神だ。朝となく蕃となく……いや、あえて、大陸の秩序に沿った言い方をすれば、華夷の区別なく、国力を向上させる――
 それが、日没するところならぬ、日()ずるところのありかただった。
 だが、古墳時代は終わり、上古も飛鳥時代に移る。天皇が、明確に周囲の豪族から抜きん出られる……「上古」という時代の一つの区分として、神武天皇から大化の改新まで、という考え方がある。蘇我入鹿(そがのいるか)が殺され、天皇の権力が確立する――それが、古の時代の終わりだ。
 そこからは、天皇権力は確固たるものとなり、朝廷が率土の浜(そっとのひん、辺境)まで支配する時代に変わる。
 矛盾なのだ――もはや、秦氏の大勢力は。
 古の協約は、その役割を終えた。
 勇退だ――まさか、狡兎(こうと)死して走狗煮られる、というほどの、むごい事態に立ち至るわけがない。飛鳥(ひちょう)尽きて良弓(かく)る……野党であることを止めれば――朝に伏し、その体制の中で進退していれば、それなりの厚遇を得ることも出来よう。
 まさに、飛鳥時代とともに上古が終わり、弓月君の氏族が無用になる――爾後は、蔵に仕舞われて……良弓のありかは忘れられる……そういうわけだ。

 (それを――

というのではないか……)

 かつて、双璧であり、車の両輪だったのだ――天孫系アマテラスと、渡来人系の八幡神……だと言うのに、その後者が、前者に包摂される――
 合作であるはずの日の本は、朝の独占に帰する……
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