習合 節四

文字数 685文字

 「成る程、兵主の武勇で、疫鬼は鎮まっておるものの、それで、悪所の汚水が浄められるわけではない」そう指摘すると、徐福は顔をしかめた。「向後、土木工事に経費をあてるよう伝える」「それを、陰陽の技で下支えするのが、仕事であろう」「おい、図書頭。方士に、陰陽術をうんぬんするのかや」陰陽道は、大陸から渡来した。刷雄は、笑う。「まさしく、陰陽五行の道よ。蚩尤は、武神であろうが」「む」と、徐福が考え込む。しばらくすると、彼も思い至り、「ああ」と、声を上げる。この男にしては珍しく、快活に笑う。「知恵者よの」「三人寄れば、という」「はあ」世道は、分かっていない。刷雄は、部下の肩を叩く。「この場合は、わしと、方士のじいさま、そして、兵主神よの」
 兵主、蚩尤は、戦争で用いる兵器に鉄を使うことをはじめたとされる。また、兵器の開発者でもあり、剣や矛、弓矢などを作った。
 「矛、が、よいのではないか」と、刷雄が言う。
 「うむ。世本(文献)では、()(ぼう)(げき)酋矛(しゅうぼう)夷矛(いぼう)が、兵主神に由来すると記されている」さまざまな形状だが、どれも、ホコの一種と考えていい。「早速、わが一族(うから)の名工に鍛えさせよう。以て、神体とする」世道が、分からなさそうに、刷雄を見る。「五行相生(ごぎょうそうしょう)」と、たねあかしをした。「ああ」世道も肯く。
 陰陽五行説では、世界は、木火土金水の五行、つまり、五つの元素から成るとされる。この五行は、相剋(そうこく)、つまり、互いに打ち消し合う性質を持つ。一方で、相生(そうしょう)、お互いを生み出す性質があり、その順番は、木火土金水の通りになる。
 金行、すなわち金属は、「水」を相生()む……
 「妙案」世道はつぶやいた。
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