まつろわぬ民 節七拾六

文字数 821文字

 「われらは、本邦の全国に習合することで、あの妖魔ばらを超克(ちょうこく)し、決してぬぐえぬ異邦の残滓として、伏在する」
 伏魔殿の魔のように――影本体ですらない、そのふちのにじみ……

のごとく。
 ぬえのごとき多頭のなにかとして……
 ひょうすべは、成立する……!
 
 「それが、秦氏、百千年の計……呑まれるのなら、呑まれるまま」
 われらはわれらをうしなわず……
 唱えつづけるのだ。
 〝われらは違う〟
 
 「まつろわぬ民として、ありつづけよう」
 
 徐福は言った。
 刷雄は、目をみはる――(とおった)と、その実感がある。
 神に通じることを、神通という――今、とおったのだ。
 天地人――おそらくは、鬼までも……
 (たていと)が……その果てなき、連綿のつらなりを貫いて、
 
 (おど)す、(よこいと)が……
 
 

……!
 
 本邦の連綿、歴史をつらぬいて……異邦の風趣が、添えられている……
 沿うている……
 
 (わしらは)
 
 おのれの中にいる外国人を、信じてもいいのだ……!
 
 (ありがとう)そうとしか言えないではないか――つまるところ、後世生まれるある信仰の、神への礼賛が「南無阿弥陀仏」に収束するように……
 おのれに添う……影のようにかたわらにあり、響きのように内に鳴る……
 
 そんなものに、ほかに、なんの言葉をつづればいいのだ……
 
 徐福が、どこか遠い目で、すみ渡った小泉川を見ている――秦の仕事……これまでも、これからも、ずっと……
 見守っている。
 川辺に立ち、流れを観じ……おのれはそれに染むことなく――
 たといひたされるにせよ、ながされずに。
  智に働けば角が立つ、情に(さお)させば流される
 そんな人の世にあって、不動の支柱となって……道標となって……
 その異彩をして、ひとはみな、正道を思い出す……
 さまざまな色彩に揉まれながら、それらに融けず、ひときわあざやかに(おど)す……
 
 ひとすじの異彩たれ。
 
 それが、ひょうすべの誓いだった……
 
 

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
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