まつろわぬ民 節廿六

文字数 456文字

 う、
 お、
 あ、(ああ)
 のけ反り、雨降る闇に霧散する……影の周囲の罔両(うすかげ)――光と闇の、境界線のあやかし……
 そこから、妖物も神仏もやって来る……源流――源泉……
 泉はまだ涸れぬ……
 罔両の姿が凝り、ぼんやり、とは言えぬ、確然とした、色濃い「影」になる。蛍火に照らされる、あやしの姿態……
 淮南子(えなんじ)に曰く、
  罔両はその(すがた)は三歳の小児の如し、色は赤黒し、目は赤く耳は長く、美しい髪がある……
 み、
 い、
 い阿~
 赤子のような――あるいは、水死体じみた、白く膨れたおどろの肉体……ぬばたまの髪に、馬のような耳が伸び、両目は、暗がりにある犬のごとく光る……死を詰め込み、屍肉を貪る悪鬼……
 ぶ、
 ず、ず……と、口角が吊り上がり、(やまいぬ)めいた鋭さと烏の不吉さの漂う笑みを剥く……凄愴、狂乱。
 三つ子ほどの大きさにしては、明らかに、その歯は大きい。犬歯は牙であり、臼歯は骨肉を挽く(うす)なのだと、思い出させる……
 歯は白く、新品のような、捕食の熱意にあふれていて……
 (ここからよ)
 魍魎――墓地や墓穴にて、死人の脳髄をすする小鬼。
 
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