習合 節六

文字数 624文字

 兵主部たちは、普請を終わらせた。皐月十日のことである。兵主神社、と、社号を扁額(へんがく)に大書した、鳥居が立てられる。異形の鳥居だった。まず、大きく、二丈余(六メートル以上)の高みから、参拝者を迎えている。丹ではない、もっと深い赤色に塗られ、それは、悪所で散見される赤の色と同じものなのだ。兵主神社の文字は、赤い扁額に、金文字でしたためられていた。境内は広々としていて、ところどころ石畳で舗装されている。石灯籠には例の「人面獣身」じみた絵像が彫刻されているし、赤い瓦で葺かれた拝殿、「人面獣身」蚩尤像が描かれた(のぼり)や蚩尤旗がはためく、どうにも、神社らしからぬ風景だ。「きらぎらし」と、みな、度肝を抜かれているが、華美と奢侈の危うい境界に建てられている、毒々しい神社だった。だが、この妖怪じみたたたずまいがものめずらしく、さらに疫病封じの効験を秘めているようで、人々は、竣工前から、「ひょうすべさん」の社に詰めかけた――街で、疫病封じのまじないに、赤い紙に「へうすべじんじや」と書いたお札を貼りだしているのを目にしたこともある。清雅な公家ならば、「いと奇異(あさまし)」とでも評する建物だが、まあ、一般的な神社を想像しているとそうなる。刷雄が見る限り、これは、寺、以上に、大陸の道観(どうかん)(道教寺院)に似通っている。(やりおった)というところだ。
 しかし、それら一切を見下ろす、牛頭六臂の、瓔珞(ようらく)で身を飾った祭神を、霊感で捉えると、むしろ、この神社しかないような気分にさせられる。
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