まつろわぬ民 節五拾八

文字数 443文字

 徐福の前にあるのは、まさしく、漢代の――技術の精華と、呪術の神韻が息吹く逸品だった。表面の氷のごとき鏡面に、鮮やかにおのれが映り込んでいる……まったく、鏡は呪具だ。このちっぽけな円形の内側に、のぞき込むものを含めた、全世界を捕らえてしまう……そこにただよう妖しさ、不健全さ――まさに、呪術!
 (まじな)いの領域……
 これを幾十枚と所持し、日や火に輝かせながら託宣をもたらした卑弥呼は、なるほど、アマテラスのモデルと言われるほどの驚異と神秘と呪力を帯びて映ったことだろう――
 八幡司は、鏡を、翻す……そうすると、滑らかな水面のようだった明鏡止水の淵が一変……
 千波万波――緑青の碧みが、凄絶に歳月を謳う……銅の部分に施されている彫刻は、目も眩むほど、浮彫の肉がせめぎ合い、精緻な線と肖像がひしめいている……神獣、飛仙、龍の牽く車、天帝、日月を捧げ持つ神人……銅の相貌が笑い、吼え、語る……それらの世界観と物語が、中心の鈕(ちゅう、持ち手)の穹窿(ドーム)状のふくらみから、宇宙の渦のように展開している――
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