習合 節卅

文字数 734文字

 何卒、という、真摯な気持ち、一途な祈念。鬼どもの気配が消える。(やれやれ)刷雄は、おのれの体を包み込む疲労感と、熱、そして、腕の傷から出血とともにこぼれていくなにかを感じている。「気苦労絶えぬ法事にしても、命がけぞ。連中への法会(ほうえ)が、わが一回忌となりかねぬ」「えい、縁起でもないことを」世道が、かなり弱まった風雨を浴びながら、近づく。太刀持つ身の心得、おのれが斬られた場合の用心だろう、清潔なサラシを取り出した。「まずは、血を止めましょう。汚水に浸った故、清水で洗うことから」「(くら)え」徐福が、世道に、なにかを放る。世道が受け取ったそれは、丸薬だ。どうも、鉱物に由来するらしい光り方をしている。「仙丹ぞ」「わしらは味方同士であろう」「不老不死はさすがに虫のいい話じゃが、命を延べるのは、まことぞ」「(すいぎん)……」仙丹には、よく用いられる。徐福は、ニヤリと笑う。「おぬしに、それほど上等な丹薬をくれてやれるか。寿命相当に、死を先延ばしする」薬だ。世道から受け取った丸薬を噛み、固さ、焦げ臭さ、苦みを味わう。法術で浄めた水で、傷口を洗う。「物狂いされ、自らお命を縮めようとされたのかと」サラシを巻きながら、部下を見る。「そりゃ、そもそも、土木司(つちたくみのつかさ)の公務を手伝っておる形じゃが、小泉川の人柱になるところまで、尽くしてやるつもりはない」「滅私奉公の(かがみ)ならまだしも、鬼を鎮める仕事ですからな。わが太刀も、上役を殺めた妖刀にならずにすみました」「切れ味のよいものを帯びよって」腕を動かし、顔をしかめる。「物騒なものがなければ、物騒な事態から逃れ得ぬもの。切れ味の悪い包丁は、よいものより危険と言います」「まあ、たしかに、その切れ味ゆえに、命を拾ったわい」息を吐く。上司と部下は、笑い合った。
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