ひょうすべの誓い 節十九

文字数 728文字

 秀吉の中国攻めは、当初は尼子氏とその拠点上月城を基軸に推移し、その後、荒木村重の離反、毛利輝元の上洛計画とその断念などを経て、別所氏と三木城をめぐるものへと変遷していく……この間、三年たらず、しかも、播磨(兵庫県)という、中国地方への玄関口で戦線が膠着している。いかに、双方がこの前線に注力していたか、そこで秀吉が懸命に働いていたのかうかがえる――
 天下人につく――それは、古来から、地方を基盤にしつつ中央をうかがっていた秦氏の本能だ。秀吉というひょうすべは、信長に天下人を見ていたのだろう。天下布武の四字をきいたとき、この方こそ尽くすべき主、と、見定めたのだろう……川並衆も、奮起した。そうなると、この連中は、よくはたらき、おごられたほうがおじけづくくらい、豪気におごる……
 可憐だ。
 この間、上杉謙信という個人で信長を圧倒しうる最後の英傑が没している。第三次をむかえた信長包囲網も、じょじょに織田家をおさえきれなくなってきている。その一方、松永久秀や荒木村重といった織田家の重要人物が謀反をおこしている。――そもそも、こういくたびにもわたって信長包囲網が構築されるのは、信長本人の苛烈さに責任の一端がある。
 信長自身は、屈辱外交も享受する――政局が有利にころぶまでは平然と耐えてのける……これもなかなかの化け狸だが、いかんせん、大魔王として印象づけられているとおり、雌伏の時期が終われば、どんな酷烈なことも平気でやる……
 おかざりにおさまらない足利義昭をほうりだし……信長に敵対する大名に援助しつづけた比叡山延暦寺を焼き討ちし……
 この苛烈さでは、ながくひとはついていかない……
 信長包囲網は破綻しつつあったが、同時に、織田家自体がくずれつつある……
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