ひょうすべの誓い 節五拾九

文字数 1,306文字


 倭寇――これら後期倭寇が活動しはじめると、ほどなくして、倭寇が激増したのだ。
 後期倭寇の成員は、日本人がせいぜい一割か二割……それ以外は、ことごとく中国人や朝鮮人だったという……明朝の文書にも、「倭寇十のうち偽倭は七、真倭は三にすぎず」というものがある。
 大航海時代は――大海賊時代でもあった、というのか……
 横行する海賊たちが、倭寇の盛名を借りて、みずから倭寇と名乗るようになったのだ!
 それら偽倭のなかには、みずから月代を剃って、倭に扮するものまでいたという……
 いやはや――
 本来、「倭」というのは、身を低くして従う、という意味であり、中華に臣従する卑小なやつら、という語感がある……ただ、こうまで、国際色豊かな海の上に、多民族の上に立って雷名をとどろかせる悪名高き大人物(ノトーリアスB・I・G)としてあつかわれると……なにやら、日本人とは別個の、ほこるべき大名(ビッグ・ネーム)として、「倭」という呼び名を認めたくなってしまう……
 その活動範囲は、朝鮮半島や中国沿岸部、台湾、海南島、琉球、フィリピン……ようするに、東アジアから東南アジアにまたがって、盛大に交易をし、必要があれば武威をふるい、略奪した……
 中央アメリカ、カリブ海の湾港や島嶼を根城にした海賊が、世界に名高いカリブの海賊(パイレーツ・オブ・カリビアン)である。
 つまりは、それを、東シナ海でやったのだ――中心メンバーは、中国人(福建省人が多かったという)、それに朝鮮人や、もしかすると、スペイン人やポルトガル人、高砂(台湾人)、それどころか崑崙奴(こんろんぬ、黒人)もいたかもしれない! 日本人も参加していた。
 
 それが「倭」だったのだ!
 
 ハレルーヤー。
 それが海の兵主部(ひょうすべ)だ。
 かつて、兵主蚩尤のもと、大秦の名乗りのもとに、素性も知れぬものたちがあつまって結成された氏族のように……
 
 彼らは、前期「倭寇」の盛名のもとに、結集した――
 大航海時代の秦氏(うまのほね)なのだ!
 
 倭寇は、そのあらぶる活動から、海乱鬼(かいらぎ)、とも呼ばれる――
 
 またの名を

 八幡(ばはん)
 
 南無八幡大菩薩!
 (たくさん)のものたちは、どこの馬の骨とも知れぬ馬頭の鬼どもは、海乱鬼となり、この讃美(ハレル)を大書した(はた)をなびかせて、環東シナ海を、わがものがおでおしとおった!
 バハン!
 じつに、多国籍のものたちが口にするのに好適な発音になったものだ……犯罪に手を染め、多国籍で、流通にかかわって大利を博する……マフィアではないか。
 イタリアの方々が、マフィアのことをどう考えているのかわからないが……作者の幼稚な感覚で言わせてもらえば、この海の巨大マフィア、海のひょうすべ、
 八幡(バハン)
 倭寇のことが、ほこらしくないといえば、うそになるのだ。
 八幡、という、古朝鮮の渡来人が、日本で自尊自立してやっていくための氏神が、その開放性と元来の国際色から、洋の東西問わずに、武装商人たちを引きこんだ――
 これも、おおいなる鬼子ではあるものの……まごうことなき、ひょうすべの末裔!
 
 ――かつて、アラビア人は、黄金の国ジパングを、中国での呼び名にじゅんじて「倭国(ワク)」とよんでいた。倭国(ワクワク)――
 倭寇――
 パイレーツ・オブ・ワクワク。
 こんなひょうすべが、十六世紀の東シナ海にはばかっていたのだ!
 
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