習合 節廿七

文字数 544文字

 刷雄は、腕からの出血を、小泉川に流すのみならず、そのまま、入水し、激浪に溺れる。大雨と、風浪に濡れそぼちながらもかろうじて息を継ぎ、その目が、どこか、遠くをさまよっていた。
 「葦原(あしはら)の」と、発した声には、節がついている。
  〽葦原の 瑞穂(みづほ)の国を 天下り 知らしめしける 天皇(すめろき)の 神の(みこと)御代(みよ)重ね
 小泉川の激浪は、淀川の方から、つぎ足されつぎ足され、雨風の加勢もあり、刷雄をさらわんと、覆いかぶさり、砕け散る。
  〽(あめ)日嗣(ひつぎ)と 知らし来る 君の御代御代 敷きませる
 次から次へと、刷雄に襲いかかり、老身をなぎ倒さんとする、水流。それが、ふと、切れ間を迎えたかのように思えるのは、間違いだろうか。波の随(まにま)に、彼が詠う。
  〽四方(よも)の国には 山川(やまかわ)を 広み厚みと (たてまつ)る 御調宝(みつきたから)は 数へ得ず 
   尽くしもかねつ しかれども 
   我が大王(おほきみ)の 諸人(もろひと)を (さそ)ひたまひ よきことを 始めたまひて
 これは、祝いの歌であり、その祝詞が、小泉川を、なごませはじめる。川面に落ちた(ブラッド)が、大水(フラッド)を鎮める。神の(イーコール)のごとく、霊験を示す。
 
 ((おお))と、山車を引く天狗の列で、感慨に打たれるものたちがいる。霜のように深く根差し、春のように喜ばしい。
 秋のように烈々として。
 それは、千秋を貫く、彼らの本能だ。
 
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