まつろわぬ民 節七拾

文字数 597文字

 かぶりを振る。
 「中央(こなた)で、朝に媚びへつろうその未来――その末路が、いかなてんまつに至るのか、つぶさに見た以上は、のう」
 「……」
 「なんという顔じゃ」にい、と、笑う――土にまみれ、貧窮し……
 徒手空拳で日の本に渡り、溺れるものがつかんだ

一本から、長者まで成り上がった――
 また、同じことをするだけだ――裸一貫。
 (

には、どういう仕儀に至るのか、見届けることなぞできぬがね――)
 水先案内人――それが、永遠を志す道士を名乗りとする、おのれの仕事だ。
 野に向かう――
 地方へ……
 依然、中央のみが夜の燭のようにかぼそく文明をたたえている、この国の、地方へ……
  永結無情遊   永く無情の遊を結び
  相期遥雲漢   相()す遙かなる雲漢(うんかん、天の川)へ
 もとより、地方の土豪で、その大たる野党だったのだ――また、その立場へかえるだけだ……
 新時代は、国風の波であり、もはや、異風は誇示できぬ――だから、潜在し、伏在し……底流のごとくある……
 伏魔殿の魔のように――忍びやかに……
 もう、この、病膏肓(こうこう)に入った技術者の虫が、騒ぎはじめている……
 そういう自分であることが、うれしくて仕方がない――
 「薄情者めが」刷雄が言う。
 くくく、と、肚で、笑いを転がした。
 夏雲を追う――童のようだ。
 「寂しくなる」
 「ああ」
 童心は、片一方で、おおいがたい喪失を抱えてもいるのだ。
 「寂しい」
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