まつろわぬ民 節六拾三

文字数 436文字

 徐福は、小泉川を清澄の水面に――鏡の水面に変える神変を印し、烏枢沙摩(うすさま)明王の解穢(ぐえ)(ほむらい)に包まれて凄愴に立つ……本邦の浄化の水神、罔象女神(みずはのめのかみ)に、跪く。
 「御身に働いた罪――重ね重ねご無礼の段、わが身を神意神罰に委ねることでご寛恕いただきたく……」
 刷雄が、息を呑む。
 罔象女神が、動き出す――動く……それは、薄紙越しの()が移ろうように――水の流れのように、日月の動きのように、自然に映った。
 自然(じねん)
 徐福の前に立った罔象女神が、その細い手を、そっと、秦の方士にかざした。
 ――覿面(てきめん)――
 それは、霊感にさえ映らぬ透明度……されど、凡夫を含め、誰もが感じたのだ。
 着水(ドロップ)
 ――波紋(ウェイヴ)
 (さざなみ)が達する。圧倒される。(したた)った――いや、垂れた。
 恵みのように――
 注がれた……
 (か、灌頂(かんじょう)、か……?)刷雄は、目を見張って、女神が、不敬ものにもたらした祝福(ブレッシング)を見守る……
 否――洗礼(バプテスマ)だ。灌頂――それは、洋の東西問わずに広く存在する、禊ぎと聖化の様式だ。
 頭頂部に水を注ぐことで、対象を聖別する……
 
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