まつろわぬ民 節四拾五

文字数 481文字

 徐福は、太秦の九字第(くじのだい)を訪ね、秦氏の氏長者――まさに、「あまたの秦氏」を司る、八幡司(やわたのかみ)に、面会する……
 九字第は、それ自体が異風を放っている。豪奢な屋敷なのだが、その肉厚の柱や、軒下の木組み、屋根の曲線などに、覆いがたく、大陸の奢侈を感じさせる……
 技術――まごうことのない、本邦のものとは別個の、かつて本邦最古の飛鳥寺(あすかでら)を建てたものにも通底する技術体系が、ここに息づいている……建築技術(アーキテクチャー)
 (ふ)
 式神も、多い――裳裾を引きずる美姫が現れ、自ら、徐福を案内してくれる。その周囲に光体(オーブ)が廻るのを、秦の道士は、見逃しはしない。式神の式は、数式や方式の「式」。やり方、ということであり、呪術儀式によって使役される雑霊である。
 (技術誇り、か……)さもありなん、秦氏は、渡来人の集合と習合の果て。異邦からやって来たものたちの既往が――大陸の技術で優越したものたちの記憶が、どうしても、誇示と矜持に満ちた作品として結実する……
 呪術にあってさえ、そうなのだ。九字第の暗がりのあちこちで、うごめくもののけの気配がする――魍魎のごとく、薄暗がりと死角に息づく眷族の存在感がある。
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