まつろわぬ民 節九拾七

文字数 1,099文字

 月と(つつ)、ひょうすべの列が掲げる松明……それが、あかりのかぎりだ。
 洪水のように氾濫している……いや、大海嘯(おほつなみ)か……
 この潮目……
 あるものとあるものが、因果のように、あざなえるなわのごとく、からまりあい、まじわり、しばって、
 むすぶ……
 産霊(むすび)なす……
 過去(こしかた)と今生と――いまだあらわれぬなにかが……
 八条大路が、列の前途で、とぎれる……その左右が空間となり、べつの道路と合流している――
 西三坊大路――
 大路と大路がであう……
 
 回路(サーキット)が完成する……!
 
 (うう)辻――
 廻る……
 太極の渦が――始原の乳海が――魔女が煮詰めるポーションが……
 

が……
 
 そしてあらわれるのだ――秦氏の直面した破滅……落魄という、すくいのない自己否定――
 
 ヒ、
 ヒ、
 ヒョー
 
 そのかん高い、笛のような音色……夜に口笛を吹くでない――
 魔が寄るぞ……
 
 (くちなは)が出るぞ……!
 
 よろり、よろりと――
 いや、
 
 ひょっこり、ひょっこり……
 
 そうとしか言えない、どこか、楽しげですらあるリズムで、みょうに、体の前面を開いた、
 ひょうたんにもにた、「ひ」の字にも相似する――
 ひょうげたシルエットが……
 
 けむくじゃらの体を、ひどいがにまたにひらいて、その肘からさきも、放胆に左右に投げ出したかっこうで……
 獣のからだと、よいどれ親爺の人面がひとつづきになった、ひどく奇怪で、なにか、やりきれないくらい、なにかを戯画化(カリカチュアライズ)した……それを造形した天工の、鋭い嗤笑が――そんなものが聞こえてくる……
 
 無残で凄惨な、なれの果てだった……
 秦氏というものの可能性の、行き詰まり……息つまる、生き詰まった、どん詰まりだ……!
 すくいようがなく落魄した――というより、都会という、ある意味、それ以上いじる余地がなく、改良する箇所のない、技術のいきどまりで躊躇逡巡、二の足ふみ、たたらをふんだ、鉄の民のいきつくはて……
 
 たたらをふまぬ製鉄民族に、なんの未来があるものか……
 
 躊躇逡巡――小心翼々……持てるものになって、もたざる立場に落ちるのをおそれて……
 中央から出ずに、とどまりつづけた――
 
 活路を見いだせず、死水(しすい)になり果てた……!
 
 それこそ、()(みず)とよんでもよかろう――そととつながる水路をもたず、腐りはててしまった、よどんだ水……
 技術の民のゾンビー――歩くしかばね(ウォーキング・デッド)……
 
 

……! 
 
 ひょこひょこ、こっけいに、ひょうげた様子で、かかし(くえびこ)のように……
 それはむしろ、なにかをおびやかすため(スケアクロウ)、というよりも、
 
 ……磔刑にかかったなにものかだ。
 
 いけにえにささげられた、
 
 氏神だ……!
 
 
ワンクリックで応援できます。
(ログインが必要です)

登場人物紹介

登場人物はありません

ビューワー設定

文字サイズ
  • 特大
背景色
  • 生成り
  • 水色
フォント
  • 明朝
  • ゴシック
組み方向
  • 横組み
  • 縦組み