まつろわぬ民 節十八

文字数 610文字

 
 神明、と言う。神は光明――この考えは、洋の東西問わず存在し、現に日本神話でも最高神はアマテラスだ。
 その一方、浄闇と言って、神が好まれる刻限を夜陰――草木が眠り、人気が絶え、里の黙する時間帯に設定したのは、神道の妙味であろう。
 神が明かりであるのなら、その明かりがけざやかに、(あらた)かに顕れる刻限こそ、闇の最中に他ならぬ……
 その明かりも、白昼の太陽のごとくきらぎらしいものではない――障子を透かした日射しであり、闇を融かし滲ませる雪洞(ぼんぼり)のような、淡くおぼろな輝きこそが神聖であると規定した。
 これこそ、神道の美質であろう。
 (御身には、ご理解いただけぬやも知れませぬな)ひょうすべたちが準備にいそしんでいる。刷雄は、境内に佇立する、牛頭四眼、瓔珞(ようらく)をまとう六臂(ろっぴ)の魔神を見る……まるで妖怪、妖魔の王だ――夜の闇では、ただ怪奇。
 怪異ではあるが、神異とは言いがたい……それはそうだろう。白昼、大陸分け目の決戦に臨んだ凶神だ。鮮烈であり、熾烈で峻烈――烈しいものだ。
 臨める(つはもの)闘う者皆陣(やぶ)れて前に在り……
 九字は、山中異界に踏み入る際、護身のために唱える呪だが、まさに、よるの山中で不意に直面しそうな魔王である……神明、という言葉の清明さは見当たらない。
 ただ、その魔王の隣に、古来の神明で、穢れを解く水の女神が鎮まるのは、なにやら、景色が良さそうに思える。
 (ふ)
 細い雨をもたらす雲越しにも、日が没してゆくのが感じられる……
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